農村
渡辺って娘はお菓子を食べてから、エリクサーを持って帰ってった。
口の周りにチョコが付いていたから、皆にバレるだろうな。
用事も終わったので馬車に戻ると、何やら外が騒がしい。
馬車も止まってるし、中にも誰も居ないし。
カーテンを開けて窓から外を見れば、どうやら村人と揉めているようだった。
周りを見回すと農村と判る。広い農地と20件くらいの家しか無いから。
話し声を聞いてると、どうも俺を出せみたいな事のようだ。
降りてカンダさんに近づく。
「どうしたの?」
「こちらの村長が依頼があるそうなんですが、ほら、福田さんは……ね」
「あぁ、そうね」
中には居なかったからね。
説明出来ないし、困っただろうな。
「で、何で依頼なの?」
「通り抜けようと馬車を進めていましたら、一人の若者が馬車の前に飛び出して来て通れないようにしたんですよ。
それにレイが反応しまして。土壁を作って眠らせてしまいました。
それを見た村人が私達を傭兵だと勘違いしまして、依頼を出すと言ってきたんですよ」
多分レイがやったんじゃなくて、御者をしてたカンダさんかキジマさんがしたと思ったのだろう。
で、傷を付ける事無く収めたので、デキる傭兵じゃないかと。
依頼したいと話したら、雇い主が既にいる。
じゃあ雇い主と話させてくれ、いやダメだ。
何でダメだ? 乗ってるのだろ? 乗ってるが、ダメだ。
こんな感じで口論になったんだと思う。
でも、何の依頼なんだろうか?
ま、一応挨拶しておくか。
「俺が主人?の福田です」
「何で疑問系なのですかな? ワシが村長です。お話を聞いてもらえませんか?」
「その前に。俺達はこの国の者じゃありません。
そして傭兵でもありません。冒険者です。それでも良いのですか?」
「はい。かなりの実力者とお見受けしました。
それでも良いので、どうか聞いてもらえませんか?」
「依頼を受けるかどうかは、話を聞いてから決めます。それで良ければ」
「ありがとうございます。では、ワシの家へどうぞ」
案内され、俺だけ村長の家に行く。
皆は雇われてるって体なので、馬車で待機だ。
お茶を煎れようとするので、断っておいた。
長居するつもりは無いからね。
「見て判るように、ここは農村です。皆、農業を生業として生活しています」
「はい」
「簡単に説明します。ここ最近、畑が荒らされるのです」
「あぁ、つまりその犯人を捕まえろという事ですね?」
「人か獣かは判りませんが、そういう事なのです」
「荒らすのは日中ですか? 夜ですか?」
「夜です。朝に畑に行くと荒らされているのです」
「荒らすと言うのは、どういう感じですか?」
「グチャグチャにするのではなく、収穫前の作物だけを盗ってます」
ふ~ん。そう聞くと人間っぽいな。
獣なら食い漁ってそうだもん。グチャグチャになってるんじゃないだろうか?
「毎晩ですか?」
「そうですな。ほぼ、毎晩です」
「見張ったりしなかったのですか?」
「村の若い者達が、交代で見張ってました。
しかし、見張りの届かない所を荒らしていきました」
さらに人間臭くなってきた。
「罠とかは仕掛けていないのですか?」
「一応、獣避けの柵はしていますが効果がありません」
その程度の罠か。いや、罠とも言えない物だね。
トラバサミとか仕掛けてるのかと思ったんだけどな。
「そうですか。では最後に、報酬はどうするのです?」
「……20万までしか出せません」
20万か~。別にお金は欲しくないんだよね。
「じゃあこうしましょう。
お金は経費だけで良いです。その代わり、こちらの農作物を下さい。
郷土料理とか食べさせてもらえると嬉しいですね」




