野生に帰れ!
「さて、ケロよ」
「……うぅ。何よ」
「何を泣いてんだ?」
「変な名前で従魔にされたからよ!」
「何でも良いって言ったじゃん」
「だからってケロは無いでしょ!」
「え~、可愛いよ~」
「素敵っス」
「知的な名前ですね」
「えっ? あら? そう?」
女性陣の褒め殺しで、あっけなく納得したようだ。
この後に起きるであろう恐怖も知らずに。
「さて、ケロちゃん。宝石頂戴?」
「えっ?」
「ギャンブルに勝った報酬っス」
「えっ? えっ?」
「当然ですね。そういう約束でしたから」
「えっ? でも、それは、従魔になるって事で解決したんじゃ……」
「「「何を言ってるのかな?」」」
「はい! 今出します!!」
やっぱり。
こうなるんじゃないかと思ってたんだ。
元々それが目的だったんだから。
ケロは胸の谷間からダイヤモンドとルビーを1つづつ取り出した。
そんな所に入れているのか。
……さすがに犬だと思うと胸には興味が出ないなぁ。
「あれぇ? 1個だけ?」
「はい! 出すにも限度がありまして!」
「限度? 何言ってるの?」
「ヒィィィ!」
「はいはい。脅さない」
「福田さん! いや、福田様! お助けを!!」
「……とりあえず、犬になってくれ。何か女性陣の目が怖いから」
「はい!」
俺にすがり付いてくるのは良いんだけど、胸を腕に押し付けてくるんだよな。
ちっとも嬉しくないけど。
あっ、女性に興味が無いとか貧乳好きって事じゃ無いからね!
犬の方が好きなだけだから!
「犬の状態でも喋れるんだろ?」
「はい。大丈夫です」
「まず、生態を聞いておきたい。2つ頭があるけど、どうなってるんだ?」
「判りやすく言えば、人間の右脳と左脳のようなものね。人格が2つあるという事は無いわ」
「あぁ、そんなのあったね。どっちかが感覚とかで、どっちかが思考だっけ?」
「私は右の頭が、知覚や感性や野生を担当してるの。左の頭が思考とか倫理とかね。
例えば冒険者が来た場合、バトルなら右の頭が、ギャンブルをするなら左の頭が担当するのよ」
「今は?」
「会話したりする時は左の頭ね」
「じゃあ人型の時は左?」
「人型になった時は、人間と同じで右脳と左脳のようになるわ」
「へ~。じゃあ今、右の頭が担当になったり出来るのか?」
「出来るわよ。あまりやりたくないけど……」
「ふ~ん。後々問題になっても困るから、今の内にやってみてくれ」
「……判ったわ」
ケロは喋る事を止めて、犬でいうお座りの状態になった。
そして、パタパタと尻尾を振り始め、こちらを見てワンと鳴いた。
ケルベロス、完全に犬じゃないか。
ハッハハッハ言ってるし。
ケロは頭が2つある以外は、どう見てもラブラドールレトリバーだ。
いわゆる大型犬ってやつだね。毛色は黒。
人懐っこい顔をしている。
女性陣はもうメロメロだ。まぁ俺もだけど!
思わず全員で1時間ほど構いまくってしまったぜ!
ケロは今は人型になって落ち込んでいる。
どうやら野生に帰るのがとても恥ずかしいらしい。
残念だが、これからはちょこちょこと野生に戻ってもらうよ?
「あぁ、そうそう。聞くのを忘れてたわ。
宝石が限度が在るってのは、どういう事?」
「それを今聞くの?! 1時間前に聞けたんじゃない?!」
「犬を愛でるのが忙しくて、思い浮かばなかった」
「犬じゃないから! 冥界の番犬のケルベロスだから!」
「自分で犬って言ってるぞ?」
あっ、また落ち込んだ。




