神の名前
「判ってるから、頭を上げて。さ、皆でお茶しようじゃないか」
「……ところで、こちらの方はカンダさんと言われましたか?」
「うん。そうだよ。何?」
「大黒様ですね!」
「へ?」
何を言ってるの、この人。
カンダさんだって言ってるのに、何で大黒様になるのさ。
「カンダ、つまり神田明神。一ノ宮に祀る大己貴命=大黒様ですね!
先ほどから神様は自分の名前を言われてませんでした。
人間に係わらないという事でしたので、名前を教えないのだろうと思っていました。
なので、カンダさん、というのも、偽名だと思ったのです」
「……ソウダネ。ヨクワカッタネー」
「やっぱりそうなのですね!」
「何でそんなに詳しいの?」
「えっ、これも漫画で読みまして」
何なの、その漫画!
俺も読んでみたいわ!
「と、いう事は、貴方様はスサノオですね?!」
「えっ、いや、あの、その、えっと……ソウデスヨー」
「やっぱり! 凄い! 神様の親子と会えるなんて!」
「ナイショダヨー」
「はい! 内緒にします! 握手してください!」
本当にどんな漫画なんだろう?
カンダさんも困惑してるぞ? って、カンダさんが俺の息子かよ!
見た目の年齢で考えても変だろ!
「さて、君達だが、選択肢が2つある。
一つは日本に今すぐ帰る事だ。私が送ってあげよう」
「もう一つは何ですか?」
俺はニヤリと笑う。
実は何か楽な方法は無いかな~と考えていたのだ。
今こそ実行する時!
「もう一つは、予定通り、魔王を倒しに行く事だ!」
これにはトムさんも驚いている。
そりゃそうだ。作戦は子供達を帰した後に、俺が魔王を捕まえる事になってるから。
だが、考えてみて欲しい。
俺が魔王の所に行ったとして、簡単に会えるだろうか。いや、難しいだろう。
それよりも、魔王が待ち望んでる勇者が向かった方が会えるに決まっている。
そこで捕獲用の腕輪を使ってもらえば良いのだ。簡単な仕事です。
しかも彼らはそのまま逃げる事は絶対に無い。
何故なら、俺が彼らを日本に帰す事が出来るから。
孔明っぽく言えば、埋伏の毒ってヤツかね。あれ? 曹操だったっけ?
「魔王は君達が来るのを笑いながら待ってるはずだ。
そしてゲームや小説や漫画のように、苦労して倒しても第二段階に変形したりするだろう。
で、負ける君達を見て笑うつもりなんだよ。
どうだい、一泡吹かしてやりたくないかい?」
「……一つ聞かせてください」
「なんだい?」
「魔王を倒したら帰る事が出来ると言われてたのですが、本当でしょうか?」
「ウソだ。そんなにMPは残ってない。調子に乗って、魔王城とか作ってたからね」
「……そうですか。判りました。魔王を倒しに行きます!」
「それでこそ、勇者だ!」
「止めて下さい! 恥ずかしいです!」
そうだった。勇者って言われて有頂天だったんだ。
ゴメンゴメン。今のは天然発言でした。
「じゃあ、君の仲間の所に行こうか」
「よろしくお願いします」
「あっ、あの家は部屋が少ないわ……。王都の家にしよう」
「よ、よく判りませんが、お願いします」
カジノの町は、もう空き部屋は無かったんだった。
王都の家は広いから、あっちに集合って事にしよう。
俺はカンダさんと勇者を王都の家に送り、カジノの町の家に向かった。




