説得という名の言葉攻め
「君は聡明だ。隠してもいつか気づいてしまうだろう。
だから、気の毒だが事実を言わせてもらうよ」
「お、お願いします」
「ヤツはね、堕天使なんだよ」
「堕天使ですか?!」
「そう、神だった時に、ある失敗をして天使に降格になったのだ。
なのに、天使である事を嫌がり、地上に逃げたのだよ」
「ま、まさか……」
「信じられないだろうが、本当の事だ」
驚いているね。
そりゃ自分を召還した神が堕天使だったなんて信じられないし、信じたくないだろう。
「その証拠に、魔王を倒す力が無い。だから召還という誘拐をしたのだよ」
「た、確かに変ですよね」
「私なら召還せずに、この世界の人間に力を与える。100人くらいに与えれば簡単に倒す事が出来るだろう。
もっと簡単にするなら、魔王の存在自体を消してしまえば良いだけだ」
「な、なるほど……」
「君はゲームを、RPGを遊んだ事があるかい?」
「えっ? あ、ありますけど」
「なら判りやすく説明出来るな。
魔王という存在を消すのに、MPを10使うと思ってくれ。
で、この世界の人に力を与えるのに、一人辺りMP5が必要。100人ならMP500だね。
ここまでは良いかな?」
「は、はい。判りやすいです」
「うん。
では、異世界から召還するのはと言うと、一人辺りMPが200必要なんだよ。
今回4人だから合計で800だね。力も与えるので+20で820も必要。
召還はMPを大量に消費すると思ってくれればいい」
「は、はい」
「さて、君はRPGでレベルがMAXの状態だとする。
そこで最初の町に行ったら、レベル1の時に戦っていたモンスターが出てきた。
MPの消費が大きい最強の魔法を使って、そのモンスターを倒すかい?」
「……いえ、普通に「たたかう」を選択して倒します」
「そうだろ? それは無駄だと思っているからだ。
今回の事で考えると、召還は無駄な事なんだよ」
理解出来たのか、黙って下を向いてしまった。
浮かれてたから気づかなかっただろうけどさ、世界すら作れる神が魔王も倒せないはずが無いだろ?
さ、もっと現実を教えてヘコませてあげようかな。
「そもそもだね、神は人間に接する事は無いんだよ」
「……どういう事ですか?」
「君の世界で、神は光臨したかい?」
「大昔には居たという話ですね」
「それも昔の誰かが言っただけだろ? 君は見た事が無い。でしょ?」
「……はい」
「人間に接する事が無いと言うよりも、その世界に干渉しないんだよ」
「どういう事ですか?」
「神はね、世界を作ったんだよ? なのに何で特定の種族をひいきするのさ。
ひいきをしない為に、干渉しないんだよ。人間だけ特別なの?」
「そ、それは理性があるから……」
「う~ん、しいて言うなら、自分に似せて造ったからかな。
でも、だからこそ干渉しちゃダメでしょ。
それにさ、君の世界は戦争や紛争が起きてるよね? 干渉するなら止めるべきでしょ。でも止めない」
「そうですね……止めてくれません……」
「戦争や紛争もその世界の出来事の一つなだけ。
だから、人間がどれだけ死のうとも関係無いんだ」
「それはあんまりだ!」
「……人間の行いで、絶滅した動物や植物がどれだけあるか知ってる?
戦争をしても絶滅しない種族よりも、助けるなら絶滅寸前の種族を助けた方が良くない?」
「……」
「まあ、自分の種族だから助けて欲しいっていうのは判るよ。
さて、ここまで話して判ったと思うけど、魔王が魔族を率いて人間を滅ぼすのもその世界の出来事の一つ。
人間が力を合わせて魔王を倒すのも、その世界の出来事の一つ。ただそれだけなのさ。
神が干渉する必要は無い」
残念だけど、神ってそんなもんだよ?
さて、大詰めかな?
「最後に。
そもそもさ、魔王って何?」
「……はぃ?」




