王様と交渉
この世界に来て、初めて真面目に戦った気がする。
すげー疲れた!
慣れない事はするもんじゃないね。
そういうのは少年誌に載っているバトル物の主人公の特権だろ?
俺みたいなのがする事じゃないわ。
俺の勝ちを宣言してもらったので、落とし穴の蓋を外して王様を引き上げた。
王様は悔しがる事無く、にこやかな顔をしている。
「いやぁ、負けた負けた! さすがだな、福田君!」
「いや、たまたまですよ」
そう話しながら、元の部屋に戻る。
「さて、私に勝ったのだから、この国の王になってもらうとするか」
「……何を言ってるのか、さっぱり判りません」
「強い者が王になる。それがこの国の決まりだよ」
「そうですか。辞退します」
「早いな! 少しは考えないのか? 富や権力に興味は無いのかな?」
「全くありませんね。間に合ってます」
「……間に合っていると言う事は、ある程度は持っているという事か。
ならば、強制も難しいな。では、私の相談役という事でどうだ?
それならば、ある程度融通も利くし、給料も発生しないので国が強制する事も出来ない」
「その程度なら……まあ良いか?」
「なんなら次期候補でも良いぞ?」
「相談役で」
「ハッハッハ、素直だな。ではそういう事としよう。
その旨を書いた書状を発行しようじゃないか。全て私の直筆で作るとしよう。
それを持っていれば、国内のどこでも行く事が出来るはずだ」
「ありがとうございます」
「相談役なのだから、敬語は結構。普通に喋ってくれ」
王なんて冗談じゃないわ。
それにこの国の王だろ? 変態の国の王なんかイヤだ!
うん? 何かこういうのラノベで読んだ事があるな。
確か、最初に無茶な頼み事をして、その後に本当の頼み事をするっていう商人のテクニックだったっけ?
そうすれば本当の頼み事が簡単に思えるから、承諾される可能性が高くなるんだったような……。
今回に当てはめると、王になれと言った後に相談役の話。
確かにいきなり相談役の話だったなら、速攻で断っていたと思う。
くっ、ハメられたか!
その事に気づいてから王を見ると、目が合った瞬間ニヤリと笑った。
その顔は「おや、気づいたか」と言わんばかりだ。
……ただの戦闘狂じゃなかったのか。
伊達に王様じゃないのね。完敗ですわ。
しかし、こうなってくると、俺も参謀のような人が欲しいな。
俺くらいの年だと、まだ老獪な人物には太刀打ちできない。
今の所キジマさんがそのポジションだが、王などの大物相手だと黙るんだよね。当たり前だけど。
それでも苦言を呈してくれる人材が欲しい。
どこかに転がってないだろうか……。
王様がサラサラと書類を作り、判子を付いて完成。
それを受け取り港へ戻る。
王様は「用事が終わったらまた来るが良い。相談役なんだからな」と言って笑っていた。
モリタ君から『コネクト』の事も聞いていたようで、1枚渡せと言われた。
多分、城のどこかに設置する気なのだろう。貼るだけじゃダメなんだけどな。
自分の船に戻り、早速出航。
すぐにオートにして、一番東にある港を目指す。
途中で、ルシファーさんからテレビ電話が入った。
「ハロー! 船の調子はどうだい?」
「調子は凄く良いんですけどね。先に改造するなら言って下さいよ!」
「言わなかったっけ? ハハハ、悪い悪い」
「まぁ、良いですけどね。で、今日はなんです?」
「報酬の一つが決まったから連絡したんだよ」
「そうなんですか? 相談無く決まったって所に不安を感じますが……」
「何と! 電話機にしました!」
「俺の不安は無視ですか……。それにしても電話ですか?」
「そうです! 通話のみだけどね。とりあえず君と君の仲間には携帯電話を渡します」
「とりあえず、ですか? 何か嫌な予感がしますが……」
「君と係わった王様達には、タブレットを通して黒電話を渡します!」
「……それって、いつでも王様達が俺に連絡出来るって事では?」
「その他に、ウエダ・サガワ・タルーン・ホウズキ、この4名にも渡します!」
「俺の話を聞いてくれませんか?」
「アドレス帳に全員入力済みだから、すぐに使えるよ!
充電は個人のMPを勝手に使うから電池切れの心配無し! やったね! じゃあね!」
「あっ! こら! 切るな!」
言いたい事だけ言って切りやがった!
俺のマジックボックスを覗くと、確かに携帯電話が入っていた。
便利だが、迷惑な事の方が多いと思うんだが……。




