王様と模擬戦
中庭に移動する間、俺はずっと訴え続けた。
「俺は強くない」と。
なのに、全然聞いてくれない。
「強い者ほどそう言う」とか「謙遜が過ぎる」とか、最後には「やれば判る」だよ?
やりたくないから言ってるのだが。
結局受け入れられる事無く、中庭に到着した……。
そこには木で出来た武器が並べてあった。
良かった。さすがに真剣でやるっていうバカな考えは無いようだ。
しかしあっさり負けるのが得策なんだろうが、殴られれば木製の武器でも骨折する可能性はある。
痛い目に合わずに終わらせるのが一番なのだが。
「さあ! 好きな武器を選んでくれたまえ!
あぁ、福田君は魔法もOKだからね。どんどんやってくれたまえ!」
魔法までOKしちゃったよ!
大丈夫なのか? ファイヤーアローで丸焼けなんてシャレにならないぞ?
「あの~、大丈夫なんですか?」
「当たらないから大丈夫だ!」
理屈が凄い。子供のようだ。
当たったらどうするのかって事なんだが。
そういう魔法は使うつもりは無いけどさ。
俺は諦めて木剣を持った。
と言っても、槍や盾を使った事が無いから選択の余地は無い。
「ルールは簡単だ。どちらかが気絶するか降参すれば終了。
後は何でもアリだ! さあ、始めよう!!」
う~ん、どうしたものか。
怪我はしたくないし、させたくない。
となれば、やっぱり落とし穴だろうな。
落として蓋して降参してもらおう。
10mほど離れて対峙すると、兵士の一人が出てきて開始の合図をした。
どうやらこの人が審判をするようだ。
俺は早速ピットフォールを使う。
が、王様はすばやく横に移動して穴に落ちなかった!
え~! 何で判るのさ!
「今のは魔法だな? 足元に違和感があったぞ。
さあ、どんどん攻めてくるのだ!!」
うわぁ、全部受ける気だよ……。
多分全て跳ね返すつもりなんだろうけど。
他に怪我をさせない魔法ってあったっけ?
思い出しながら魔法を使うが、どれも避けられた!
不安にさせる『アンイージネス』や、眠気を与える『スリープ』は受けたが気にして無い様子だし。
足止めする『バインド』や、霧を出す『フォグ』は落とし穴と一緒で、すばやく移動して避けた。
これで、俺の知ってる魔法で怪我をさせないのは打ち止めです。
こうなったら、ちょっと実験のつもりで掠るくらいの位置にファイヤーアローを打ってみた。
すると、王様は木剣でファイヤーアローを切り落としたんだよ!
ありえねー!
「もう魔法はおしまいか? ならばこちらから行くぞ?」
ヤバい、ヤバい! 接近戦される!
こうなったら最終手段だ! 運を使う!
えっ? いつもの事だって? そんな事ありませんよ?
『俺も王様も無傷で、降参させたい!』と願う。
あっ! 運が5も減った! そんなに難易度が高いのか?!
まぁ、減ったので発動はしてるだろう。
ならば後は戦うだけだ!
接近してきた王様に向かい、俺は素直に上段から切りつける。
しかし王様はそれを簡単に木剣で横に弾く。
その瞬間、俺の使ってた木剣は古かったのか、バキッと割れてしまった。
割れた時に破片が目に飛んできたのか、王様は後ろに飛んで下がる。
多分、ここしかチャンスは無い! 俺は『駿歩』を使い、一気に間合いを詰める。
俺は無手の技術は持ってないが、押す事くらいは出来る。
王様は組んで来ると考えてたのか木剣でガードしたので、木剣の部分を押してやった。
すると王様は1歩だけ後ろに下がった。
そして消えていった。そう、最初に作った落とし穴の中に。
最初の予定通り、魔法で蓋をする。
飛び上がってきそうだったからね。3mくらいなら飛んできそうなんだもん。
一応出てきた時の為に、飛翔の靴を使って空中に逃げておく。
出てくるのかとドキドキしながら空中で待っていたが、5分後に審判の兵士が俺の勝利を宣言した。




