食券
危険は回避するべく、最初から外交官の書状を持って城へ行った。
突然の外交官の訪問に慌てていたが、不動産の話と判ると落ち着いてきて専門の部署に案内された。
結果、現在良い物件は無かった……。
あるのは倉庫のような建物か、建て直した方が良いだろというような古い物ばかり。
ついでなので、ニーベル国の大使館の場所を聞いて帰った。
困った。これでは拠点が……。
いつまでも間借りする訳にもいかないし、どうしたものか。
考えながら歩いていたが、集合時間も近いので一旦赤木亭に帰る事に。
帰ったのは俺が最後だった。
まあ当然だろう。皆は追いかけられたりしてないのだから。
話し合いよりも先に手伝いをしようという事になり、全員で店に行く。
忙しくなるよりも前に腹ごしらえをしようという考えだ。
今日のオススメを人数分貰い、食べて支払いをする。
「今日から手伝わなくても良いのによぉ。お前さんたちも律儀だねぇ」
「お世話になるのに甘えていてはいけませんからね。
それに用事は朝の内に終わらせましたし」
「そうかい。じゃあ頼むわ。悪いな」
「いえ、気になさらず」
「じゃあ料理出来る者は居るかい?」
そう聞かれると、キジマさんが手を上げた。
「料理と呼べる程の事は出来ませんが」
「じゃあ厨房を手伝ってくれ。それと兄ちゃんは皿洗いを頼む」
カンダさんは皿洗いに決まった。
コタニさんとナグラさんは接客。
「兄ちゃんは計算は出来るかい?」
「ええ、出来ますよ」
「じゃあ勘定を頼むわ」
「いやいや、そこは主人がする所では?」
「良いんだよ。それに複雑な計算は苦手なんだ。覚えられないしな」
「そういえば会計はどういう方式なんですか?」
さっきは注文した品を主人が持ってきてくれたので、その場で払ったんだが。
注文をメモした様子も無かったし、どうなっているのだろうか?
「会計? あぁ、注文して食い終わったら店員を呼んで払うんだよ」
「……それってミスが多くないですか?」
「そうかい? 確かに儲けが少ない日があったりするかもな」
ヤバい。適当すぎる。
それにその方法でやるなら、接客係に負担がでかい。
誰が何を注文したか記憶しなきゃならないからだ。
それに食べ終わったのに気づかないなら、食い逃げもやり放題だ。
「杜撰すぎますよ! ちゃんとしましょうよ!」
「いや、複雑な事を考えると頭が痛くなってきてなぁ」
「じゃ、じゃあ、簡単に食券にしましょうよ!」
「食券?」
「店に来たら最初に入り口で食べる物を決めてもらって、先にお金を払ってもらうんです。
お金を貰ったら食券を渡す。
お客さんは食券を持って席に座ってもらうんです」
「ほうほう。で?」
「接客係は席に行き食券を受け取る。その時に席の番号を書いておく。
これでどの席の人が何を頼んだのかすぐに判るでしょ?
違う接客係の者でも持って行く事が出来ます。
あらかじめ席に番号を記しておく必要がありますが」
「ふむふむ……ってよく判らんわ。勝手にやってくれ」
「それで良いんですか?!」
「あぁ。実際に見てみないと理解出来ないわ。今日で実験だな」
「はぁ。判りました。じゃあ、準備しますね」
「おう。自由にやってくれ」
適当なのか、信頼されてるのか、面倒なのか、本当に理解出来ないのか。
……豪快だという事にしておこう。
それから皆で手分けして準備をした。
席の番号は厨房から見て右側を1番として割り振った。
入り口には簡易のテーブルと椅子を置いて、壁にはメニューを書いて貼った。
食券は作る時間が無かったので、今日は手書きで発行する事にした。
既に開店してたので少し迷惑をかけたようだが、その客には主人が無料にすると言ってた。
外には何事かと見に来ている野次馬も居た。
何とか12時までに準備は出来たので、いよいよ本番だ!




