警察署
警察署の中はニーベル国の冒険者ギルドの建物の中と似たような物だった。
違うのは中に居る人が冒険者ではなく、警察官と犯罪者だという事。
今も縛られた犯罪者らしき男が、カウンターで尋問されている。
……取調室とか無いのかよ?
空いているカウンターがあったので、そこに向かう。
珍しく女性が受付をしていた。
女性だからそのカウンターに行ったんじゃないよ?
本当だよ?
他のカウンターがガチムチのオッサンだから止めたんじゃないよ?
空いてなかったんだ。本当だよ?
「何の御用でしょうか?」
「この町に着いたばかりでして。聞きたい事があって来ました」
「何でしょうか?」
「泊まる為に宿屋を探したのですが、どこも一杯でして。
それなら家を買うかな~と考えたんです。不動産屋を知りませんか?」
「……宿が一杯だから家を買うんですか?
貴方は貴族ですか?」
「えっ? 違いますよ? 一般人です」
「一般人はそんな考えをしませんが……。
まぁ良いです。ここセキハイムの王都では、王城で不動産を一括管理しています。
城に行くしかないですね」
「城ですか……」
「ええ。それ以外でしたら、個人的に売ってくれる人を探すしかないでしょうね」
「個人的にですか?」
「ええ。通常家を売る場合は、城に行って売ります。
買いたい人は城に行って売られている家を買うのです。
しかし、売りたい人が話を城へ持っていく前に買う事は許されています。
ただし、その場合も双方が城へ行き報告する義務がありますけど」
「個人売買って事ですね」
「そういう事です。
国へ売るよりは高く売れる可能性がありますから。
ただ、騙される可能性もありますので、国へ売った方が安心ですからあまり個人売買はされていません」
「査定なんかも国がしてるんですか?」
「ええ。専門の部署があります」
多分税金とかの絡みで国がやってるんだろうね。
それで収入を得るってのもあるんだろうけど。
高い税を取るよりも自力で稼ぐのか。なかなかのやり手だね。
「じゃあ、それだと、俺みたいなよそ者には誰も売ってくれませんよね」
「そうですね。信用が無いですから。
なので、城に行くのが一番だと思いますよ?」
そうだよな~。個人売買は信用が必要だよなぁ。
ネットのオークションでも評価とか気になるもんな。
城なんか行きたくないけど、しょうがないか……。
ああいう所に行くと、貴族とか王族と係わりそうでイヤなんだよな~。
「判りました。ありがとうございます。城へ行ってみる事にします」
そう言って警察を出ようとした時、突然フードの中のチョロが動いた。
どうやら剣を弾いたようだ。
そっちを見ると、さっきの尋問されてたヤツが俺に向かって来てたみたいだ。
チョロに剣を弾かれて呆然としている。
この犯罪者っぽいヤツ、どうにかして縛ってあったロープを解き、俺を人質にしようとしてたみたい。
いまだに呆然としてるので、弾かれた剣を拾って逆に突きつけてやった。
しばらくして状況に気づいたのか、膝から崩れ落ちた。
それを見た警察官がすぐに取り押さえたので、受付の人に剣を渡す。
すると受付の女性は目を輝かせて、俺の手を取った。何故に?!
「素晴らしいですね! どうやって相手の剣を防いだのですか?!
全然見えませんでした! 貴方、ここに就職しませんか?!
そうすれば家も手に入りますよ? 国に仕える者には優先的に売ってもらえるのです!
どうです?! 就職しますよね?! ですよね?! うんと言ってください!」
おおぅ。怒涛のセールストーク!
どうやら角度的にチョロが見えなかったようだ。
俺が全て対処したように見えたのだろう。
残念! 俺は全く気づいてませんでした!
それに家の為に就職したくない。
「ええ~と、お断りします」
「なんでですか?! 市民を守る警察官。かっこいいですよね?
女性なら皆惚れますよ? モテモテです!」
「いや、自分は旅人なんで……」
「旅人は家なんか買いませんよ!」
「確かにそうですね……」
「定住する気なんでしょ?! 定住するなら職が必要ですよ?
さあ、君も警察官になろう!」
「え~と……そうそう、自分は商人なのでした!
なので、手に職はありますんで! 失礼しまーす!」
「逃げるだと?! 逃がすな! 追え! 追え!!」
俺は警察署を飛び出してすぐ裏路地に逃げ、飛翔の靴を使って屋根に登り隠れた。
何で俺が犯罪者みたいな扱いなんだよ!




