ヨウジ
城の前に止めてあった数台の馬車に乗り出発なのだが……
「何故、俺だけ王族用の馬車なんだ?」
「それは君の発言が原因だね」
そう答えたのは一緒に乗っている、ダンディなおじさん。
「ええっと、どちら様ですか?」
「おっと、私の事を知らないとはね。さっきの式典の時に紹介があったと思うけど」
「すみません……」
「いやいや、良いんだよ。あんなの退屈なだけだからね。
君がサクッと終わらせてくれて良かったよ。
本来ならまだあの後に、挨拶やら出発式やらする予定だったからね!
皆があっけに取られて、有耶無耶の内に出発出来て万々歳さ!」
「そ、そうですか……」
「おっと、私の事だったね。
私はヨウジ。一応だけど王太子だ。王になる気は無いけどさ。
よろしくね、福田君」
なんと! あの王様の息子さん! つまりはハズキ君の親!
俺よりも少し年上で30代だと思うけど、切り揃えられた口ひげやオシャレな帽子などでダンディなおじさんって感じだ。
「よ、よろしくおねがいします」
「ああ、そんなに硬くならないで。親戚のオッサンだと思ってたら良いよ」
「いえ、そういう訳には……」
「これから長い道中ずっと一緒なんだから。肩がこるだけだよ?
気にしない気にしない」
「はぁ。では。で、一緒に乗る理由なんですが……」
「言った通りさ。
式典を飛ばしたんだ。式典好きな貴族からは無礼者に見えるからね。
他の馬車だと、嫌味を言われたりイジメられるだろうからって事だ」
「そうなんですか」
「まぁ、それは建前としてだね」
「建前?!」
「親父に聞いてるよ? 君は『コネクト』が使えるんだろ?」
「ちょ、ちょっと!」
「大丈夫。ここに一緒に乗ってる彼らは私の信用出来る副官だから」
そう、俺とヨウジさん以外に3人乗っているのだ。
2人は武装していて、1人は文官とか軍師って感じの人。
3人とも軽く頷いている。信用しろって事なんだろう。
「そうですか。で、使えたらどうだって言うんです?」
「簡単だよ。君は道中はセキハイムに戻るって聞いてるよ?
その為にこっちの馬車に君を乗せたんだよ」
なるほど! 他の出場者や貴族と一緒だと、『コネクト』で帰る事が出来ないからね。
盲点だった!
「そうでしたか。助かります。ありがとうございます」
「まぁ、それも建前としてだね」
「これも建前?!」
「セキハイムに行く時に、私も連れて行って欲しいのだよ」
「……どういう事ですか?」
「いやぁ、やっぱり王太子となるとさ、自由が無くてねぇ。
一般人として色々な町に行ってみたいじゃないか!」
自由が欲しいのは判るけど、俺を巻き込まないで欲しい。
行った先で襲われても責任取れないぞ?
一緒に乗っている副官の人に聞いてみる。
「それって良いんですか?」
「私も同行します。後の2人は馬車に残り、ヨウジ殿が居られる振りをしますので」
「打ち合わせ済みかよ!」
「おっ、良いねぇ。そうそう、そんな感じで喋ってくれよ。
で、早速行くんだろ? 早く行こうじゃないか!」
「もういいよ。判ったよ。
ただし! 俺の言う事は聞いてもらうからな!」
「了~解」
軽い! 本当に王太子か?!
「1つ。向こうでは俺の従兄弟って事にする。
だから貴族とか王族のような振る舞いは無し。一般人って事で」
「大丈夫。私は冒険者でもあるしね」
「登録してるのかよ……。
1つ。今は宿が無くて食堂の2階を間借りしてる。
食堂の主人には敬意を払う事。あっ、飯は絶品だから」
「そういう人に偉そうな態度なんかしないよ。バカな貴族じゃないんだから。
飯が美味いのか~。楽しみだな!」
「1つ。俺からメールが来たら、その指示に従う事」
「それは重要だね。メールを無視したら、置いていかれても文句は言わないよ」
「最後に。何をやるにも自己責任で」
「うん、そうだね。
何か問題起こしたら勝手に抜け出した事にするから、気にしないで」
「いや、気にはするよ。一緒に乗ってるんだから。
その場合、俺も責められるでしょ」
「いや、王族が命令した事にしてるから大丈夫さ。
普通は逆らわないから」
ちっ。どれかに文句を言えば、それを理由に連れて行かないつもりだったのに。
俺は諦めて、馬車に『転移板』を置いて『コネクト』を使った。




