任命式
「皆、城から連絡が来た。悪いけど城に行ってくるわ」
「じゃあ掃除しておくよ」
「悪いね。じゃあお金渡しとくわ。夜までには帰るから」
男用の部屋に『転移板』を置いて、そこから城へ行く。
到着した瞬間、王様に怒られた。
「どうして、お前はこういう事をするのだ!」
「えっ? 何が?」
「何が?じゃない! これだよ、これ!」
王様は箱を指差している。
あ~、魚を入れた箱じゃないですか。
「魚、食べました?」
「うむ、非常に美味かったぞ」
「でしょ? アレ、トビタチウオっていう高級魚だそうですよ」
「あれがそうか! 確かに美味かった……って誤魔化すな!」
ちっ、引っかからなかったか。
「何で、この箱に入れたんだ?!」
「いや、他に手頃な箱が無かったからさ」
「厨房まで歩いていけば良かろうが!」
「厨房がどこか知らないし」
「メイドに渡せ!」
「居なかったし」
「呼べよ!」
「大事な箱なの?」
「ワシの立案した法律を書いた書類が入っていたのだ! これから通そうと思っていたのに……。
書類は塗れてグチャグチャだし、魚臭いし、使い物にならなくなったわ!」
ふと後ろを見ると、ヌマタ卿がサムズアップしてる。
あぁ、だから「ナイス!」なのか。
きっとくだらない法律だったのだろう。
「美味しい魚が食べられたのでチャラって事で」
「チャラにならないわ!」
「じゃあ、今度から何かを持って来た時用の箱でも置いといてくださいよ。
そしたら、ソレに入れますから」
「だからメイドに渡せって!」
「箱が置いてないと、また適当な所に入れますよ?」
「くっ……判った。箱を用意しておく……」
今度は箱に入りきらなかった、とか言って、引き出しにでも入れるかな。
はい、地味な嫌がらせですよ。
「全く……。ほれ、さっさと行くぞ」
「どこに? あぁ、出発するんでしたね。馬車ですか?」
「違う違う。任命式をするのだ。謁見の間に行くぞ」
「え~、そういうの止めようよ。面倒だよ」
「国の代表なんだから、しなければならないのだ!」
「わざわざしなくても国の代表だよ。面倒でしょ? 止めよう」
「確かに面倒だが、そういう決まりなのだ。ほら行くぞ」
「え~~~」
本当にお偉いさんって式典とか好きだよな。
よろしく!って言って終わりにはならないんだろ?
どうせ、何人かが、ダラダラと長話するんだろ?
誰も聞いてないような無駄な話をさ。
そんな時間があるなら、さっさと出発した方がマシだと思うのだが。
謁見の間に行くと、予想通りの展開が待っていた。
鼓笛隊みたいなのがファンファーレを演奏するし、王様・貴族の代表が長話するし。
で、最後に参加する人達の代表挨拶。
「力の限り頑張ります」とか「正々堂々……」とか「悔いを残さぬよう……」とか言うんでしょ?
って思ってたら、俺の名前を呼ばれた。
俺が代表かよ! 何も喋る事なんか無いわ!
前に出て宣誓しろと言う。
面倒だし、早く終わりたい。
判ったよ、宣誓してやろうじゃないか!
「皆さん、チャッと行ってチャッとやって、美味い物を食って帰りましょう。じゃあ出発!」
会場はシーンとなったのは言うまでも無い。
唯一王様だけが「出発はワシのセリフなのに!」と怒ってたくらいだ。




