ユカワ
少なくなった俺のカキ氷……。
それを惜しみつつ食べてると、店の主人が帰ってきた。
「いやぁ、知り合いの宿屋を回ったがどこも一杯だったぜ」
「わざわざ回ってくれたんですか?! すみません!!」
「良いんだよ。俺がやりたくてやったんだからな」
お~、何と言う男気!
かっこいいぜ、ご主人! あっ、名前も知らないや。
「まぁ、一杯なら諦めますよ」
「待て待て。ここで帰すようじゃあ赤木亭の名が泣くぜ!
こうしようじゃないか。お前らはここの2階に泊まるってのはどうだ?」
「えっ? 良いんですか?」
「その代わりだ、昼の忙しい時間だけ店を手伝ってくれ。
夜は荒くれ者どもが飲みに来るから、昼だけでいい。どうだ?」
皆を見ると全員頷いてるので、問題無いという事だろう。
じゃあそれで行こうじゃないか。飲食店でアルバイトはした事無いけど。
「ではお願いします。1泊いくらですか?」
「あん? そんなの手伝ってもらうんだからタダに決まってるじゃねぇか!
その代わり、飯だけはここで金払って食ってくれや」
「それで良いんですか?」
「こんなボロな建物に泊めるのに、金なんか取れねぇよ!」
いや、立派な建物だと思いますが。
木造の総二階建てで、柱と柱の間はレンガのような石が積んである。
ガラス窓もあり、かなりオシャレな作りになっている。
それに部屋がどんなにボロくても、家に帰るので問題は無いし。
折角なので、好意に甘えておこう。
「じゃあ、すみませんがお世話になります」
「良いって事よ! で、何泊するんだ?」
「大会が終わるまでは居ると思います」
「そうかそうか。昼が楽になるな!
いや、嬢ちゃん達はカワイイから、逆に忙しくなるか? ハハハハ!」
何とも豪快な人だ。
どこかの国の変態達とは大違いだなぁ。
「俺は福田と言います。よろしくお願いします」
「おう! 俺はユカワだ! よろしくな!」
「あれ? 赤木さんじゃ無いんですか?」
「赤木は嫁の苗字だ。漁師をしてたんだがな、嫁の親が腰をやっちまって俺が後を継いだのさ」
「あぁ、そうなんですか」
「おう、そうだ。後、一人息子が居るんだが、今は遊びに行っててな。
嬢ちゃん達、息子に手を出すんじゃねぇぞ?」
こういう場合って、娘じゃないですかね?
で、その娘は俺に懐く。で親父さんは嫉妬するってパターンでは?
ユカワさんの案内で二階に上がると、そこには部屋が4部屋もあった。
その内の2つは物置として使っているそうだ。
残りの2つは嫁さんの両親が住んでたそうだが、引退してからはユカワさんの家に引っ越したらしい。
その2つの部屋を使わせてもらえる事になった。
丁度良いので、男女に分かれて使う事に。
まぁ、寝る時は家に帰るけどね。
「掃除してねぇから汚いぞ。悪いけど掃除して使ってくれや」
「判りました。手伝いはどうしましょう?」
「今日はもういい。そうだな。明後日から手伝ってくれ」
「明日は?」
「掃除や色々する事があるだろ? 今日明日はそっちをすれば良いさ」
親切だなぁ。すげぇわ。
こういう大人になりたいね。もう大人だけどさ。
ユカワさんが降りていったので、皆で掃除をする事にした。
と言っても掃除道具も何も持ってないので、まずは買い物だ。
出かけようかとした時、ネモト卿からメールが飛んできた。
『今日から出発です。すぐにこちらに来てください。
それと、ヌマタ卿から伝言です。「ナイスだ!」だそうです。ネモト』
何がナイスなんだろう?




