カキ氷戦争
さて、時刻は13時。
出発するには遅い時刻だ。
しょうがないので、この町に泊まろうと思う。
さっきは地元民に聞いて成功したので、今回も頼りは地元民だ。
丁度『赤木亭』の主人が出てきたので、聞いてみる事にした。
「すみません。オススメの宿屋ってありますか?」
「う~ん、どうだろうな」
「と、言うと?」
「もうすぐここ王都で世界大会があるんだよ。
そのお陰で内外から人が集まっててな。宿も一杯かもしれん」
そうだった。ここでやるんだったわ。
じゃあ、皆はここに居た方が良いね。
王達と行くのは俺だけだしさ。
しかし宿が一杯か……。
困ったな。まぁ、最悪は町の外に馬車を置いといて、自宅に帰るしかないか。
「客も減ってきたな。良し、ちょっと待ってろ」
「え? ご主人? 何処行くの?!」
俺達を置いて、主人はどこかに行ってしまった。
待ってろと言われたので、待つしかないか。
しょうがない、デザートでも注文しよう。
この『ネウオのカキ氷』ってのが気になってたんだ。
魚料理を出す店で『ネウオ』って名前。
多分、魚だよね? それのカキ氷って何?!
皆に聞いたけど、誰も知らないし。
メニューに載ってるくらいだから、食べられるとは思うのだが味の想像が付かない。
結局1つだけ頼む事にした。
食べる人はジャンケンで決める事に。
悪いな、みんな。俺はお試しはしたくないんだ。
運を使わせてもらうよ。
負けたのはナグラさんだった。
非常に悔しそうだ。俺をにらんで来てる。
いや、にらまれても代わってあげないよ?
公平にジャンケンで決めたじゃないですかー。やだなー。
店員が運んできたのは、真っ白なカキ氷だった。
蜜やシロップなど、上にはかかってない。
ただ氷を削っただけに見える。
「ささ、ナグラさん。パクッと一口どうぞ」
「ちょっと待ってよ! こういうのはさ、男がするのが……」
「いやいや、ジャンケンで決めたでしょ? その時は反対しなかったじゃん?」
「ううう……ん? 福田さんさ、何か自信満々だったわね? 何かしたでしょ?!」
「ナニモシテナイヨ?」
「怪しいわ! しょうがない、私の権利は、福田さんに譲るわ」
「何でだよ! おかしいよね! ね、みんな!」
あ、あれ? 皆の視線がおかしい。
まるで「確かに自信満々だったなぁ。怪しいなあ」と言わんばかりだ!
無実だ! 冤罪だ!
証拠が無ければ有罪にはならないじゃない?
俺の反対もむなしく、結局俺が試食係になってしまった……。
震える手でスプーンを持ち、一口分を取る。
覚悟を決めて口に放り込む。
「冷たい! ん? んん?! う、美味い……」
「本当に? 美味しいから皆も食べろよって言って、美味しくないのを食べさせようって考えてない?」
「そんな悪知恵、働かないわ! 本当に美味いんだよ!
いや、皆が食べないって言うなら、俺が全部食べる!」
「……どんな味よ?」
「何て言えば良いんだろ? 甘くて冷たくて、それでいてしつこくなく、さわやかで……」
「全然判らないわ……」
「しょうがないだろ。俺は食レポする人じゃないんだから。
そうだな……じゃあ……言うならば……味の宝石箱やー!」
「パクりじゃないの!」
ナグラさんと言い合ってると、我慢出来なかったのかコタニさんが一口食べた。
そして美味しさに顔をトロケさせている。
それを見て、皆が競うようにスプーンを入れた。
「確かに美味しい!」
「これは絶品ですね!」
「追加で頼みましょう」
「すみませーん! 追加で後4つお願いしまーす」
ほらな、美味しいだろ?!
って後4つ? じゃあ皆は俺のを食べてるの?! ガンガン減ってるんだけど?!




