船長との出会い
いやぁ、人生って判らないもんだね。
俺は今、行かないって言ってた船の中のカジノに来てます。
俺の事を知ってた船長に見つかったのが失敗だった。
えっ? 予定調和? フラグ? そんな訳無いじゃん。
船内を見て回ってたら船長と出会ったんだ。
最初は船員かなと思ってたんだけどさ。
「ご乗船ありがとうございます。私がこの船の船長です」
「あっ、船長さんですか! 俺は福田って言います」
そう、ここで名乗ったのが失敗だった。
「福田さんですか。セキハイムへは観光ですか? それとも仕事で?」
「いや、なんか、大会があるそうで。それに参加しにですね」
「大会? 参加? もしかして福田さんはニーベル国にお住みですか?」
「ええ、そうですけど。それが何か?」
ここでも失敗だよね。
観光って言ってりゃ良かったんだよ。
「もしかして……帝王ですか?!」
「違います。人違いです」
「うわ~! 帝王だ!! サインください!!」
「人違いです」
「帝王は『帝王ですか?』と聞かれると『人違いです』と言うって聞きました!
本当だ! うさわ通りだ!!」
「いや、人違いなら誰でもそう言うでしょ?!」
「いえ、本当に帝王で無い場合は『はぁ? 帝王?』とか『帝国の者じゃないですよ!』とか言うそうです。
速攻で『人違いです』と言うのが帝王の流儀だと聞きました!」
誰だ、そんなうわさを流してるのは!
確かに食い気味に否定したけども!
「握手してください!」
「あぁ、はいはい」
「サインしてください!」
「いや、書いた事無いんですけど?」
「じゃあ私が第一号ですか?! 嬉しいなぁ!!」
「え~、本当に書くんですか?」
「お願いします! あっ、ナンバリングしてもらえると嬉しいです。001って書いてください」
何で3ケタ?! 今後1000人にサイン書く事無いから。
しょうがないから、漢字で『福田 001 船長さんへ』と書く。
名前聞いてなかったから、嫌がらせのつもりで『船長さんへ』と書いてやった。
「ありがとうございます!! 一生の宝にします!!」
「いや、それほどの物じゃないですよ?」
「皆に自慢してやろう!」
「自慢出来るような物じゃ無いですから!」
「ところで帝王様」
「帝王は止めて下さい」
「では、福田様。船室はどちらですか?」
「様も要らないんですが……。船室は1等ですね。えっと梅の間だったかな?」
「そうですか……。少しお願いがありまして……」
「はぁ。何でしょう?」
この時に嫌な予感がしたんだよなぁ。
聞きません!って言えば良かったか?
その後、船長にどうしても腕前が見たいと言われたんだよ。
賭けるお金も船長が出すし、特等船室にするとも言われた。
なにより、決定打となったのは次の会話だった。
「実はこのカジノは人気が無くてですね。売り上げが下がってきているんですよ。
このままでは、私はクビになるかもしれないんです……」
これは汚いよな。
ある意味脅しだ。脅迫だよ。
こう言われて断れるほど非道にはなれないよ。
まぁ、夜まではする事無いので別に良いんだけどさ。
ただ、皆と同じ様にデッキでのんびりしたかった……。




