間に合った
エレベーターが開いた先は小部屋だった。
そこにはテーブルが1つだけあり、その上には服と手紙が置いてあった。
『普段の装備ではやりすぎになるので、ここで着替えてください。
武具も服の下にあるので、それを使用してください。
終わりましたら、前の扉から出れば転送されます。
脱いだ服は洗濯しておきます。
匂いを嗅いで、興奮したりしませんよ?
あぁ、その瞬間を戻ってきた貴方に見られ、そのまま抱きつかれ「俺の匂いを嗅ぎたいのか」なんて言われ。
そのままベッ……』
……読むのを途中で止めた。
これを書いたのはあの変態さんだな。
何で重要な部分が3行だけで、残りの数枚は妄想なんだよ?!
ま・まあ、ドラゴンバスターとか確かに卑怯かもな。
攻撃力が高すぎだもん。
ミスリルのレイピア使うと毒になるし。
着替えを用意してくれたのは良いけど……全身黒って怪しくね?
これじゃあ暗殺者とかアサシンっぽくないか?
武具も置いてあるって書いてあったけど、ナイフと苦無だし。
あれ? 忍者?
俺、使った事無いんだけど?
ま、今更どうしようもない。
着てた服は横にあったランドリーボックスに入れたら転送されたし。
軽いイジメなのかな?
しょうがないので、そのまま扉に向かう。
扉の先はさらに小さい部屋で、真ん中に魔方陣っぽいのが書かれていた。
この上に立てば良いのか?
立って待っていると、床が黒い水溜りのようになりズブズブと体が沈んでいく。
だが、飲み込まれていく感じではなく、エスカレーターにでも乗っているような感覚。
しゃがんで水溜りの中を覗くと、広いフロアが見えた。
どうやら、このまま天井から登場って形のようだ。
えらくハデな登場を演出するね。
普通の立ち状態に戻し、そのままゆっくりと沈んでいく。
全身がフロア内に入った。床まではまだ3mくらいある。
……釣りのエサになったような気分だわ。
フロアにはまだ誰も居ない。
ボスのモンスターも居ない。
目の先には下からの階段が見える。そこから皆が上がってきた。
良かった。誰も減っていないようだ。
皆も俺を発見したようだ。
まだ地面に着いていないので、皆の所に近寄れない。
しょうがないので声だけは掛けておこう。結局5階まで来れなかったしね。
「おまたせ!」
「貴方が最後のボスね!」
「暗殺者タイプか……」
「早そうっス……」
「おいおい、俺だよ俺」
「敵がオレオレ詐欺してきたわ!」
「ああやって油断させる気なのでしょう」
何で俺がボスなんだよ!
「待て待て! ほら、顔とか声で判るだろ? 福田だよ!」
「仮面を着けておきながら何を……」
「声も全然違うッス!」
マスク着けたままだった!
マスク越しの声だから判らないのか?!
慌ててマスクを外そうとするが、習った通りにやっても外れない!!
すると耳元でささやくような声が聞こえてきた。
「貴方がラスボスです。
道中で貴方の運気を感じたので、もう全員クリアで結構ですが、サキ様が余興が見たいと言われまして。
どんなに切られても差されてもダメージは受けませんので、適当にやって負けてください。
負ける時にはそれっぽいセリフを言って貰えれば、さっきのように転送します」
マジか?!
本当に俺がラスボスかよ!
参加したいとは言ったけど、こっちの立場じゃないわ!!
くそぅ、こうなったらやってやるよ!
覚えておけよ、サキ! 復讐しに行くからな!!




