フェチ
降りてきたなんて優しい表現をしたが、正確には落ちるように走ってきたのだ。
何故か俺に向かって。
「そこの君~~~~!! 止まりなさ~~~~い!!」
「なななな・なんでしょうか?! 何も盗ってませんよ?!」
周りに居た警備員達が、武器に手を掛けて近寄ってきた。
俺は無実だ!!
「盗ってないのは判ってる! そんな事よりも、その靴だ!!」
「は? 靴? ああ、魔法道具ですよ。よく判りましたね?」
「魔法道具を発見する魔法道具を持ってるからね!!」
そんなのあるのか。
じゃあ、魔法道具を発見する「魔法道具」を発見する『魔法道具』ってのもあるのかな?
やめよう。ややこしくなってきた。
「初めて見る魔法道具だ! どんな機能がある?! ほら、言ってごらん!!」
「落ち着いてください! 別に逃げませんから!」
「うん、判った。落ち着こう。で、どんな機能があるんだ?! ほらほら、言いなさいって!!」
全然落ち着いてないじゃないか。
「この靴はですね、飛「ほう、風の魔法石が使ってあるのか」翔の靴……」
聞けよ!!
今は俺の足元で靴を凝視している。
はたから見ると、老婆を土下座させてるように見えるんじゃなかろうか?
悪人に見えるので、やめて貰いたい。
「ほら、説明しなさいって!」
「してるじゃないですか! 聞きなさいよ! 後、ちゃんと立ってください!!」
「立ってたら良く見えないじゃないか!!」
「良いから! 立って立って! そうしないと説明しませんよ?!」
「汚いぞ?! ズルいぞ!! 卑怯だぞ?!」
助けてー!!
さすがに警備員の人が助けてくれた。
椅子を持ってきて座らせてた。助かった~。
「ほら、止めたぞ。さあ、説明を!!」
「これは飛翔の靴って言うんですよ。
足の裏に空気の塊?みたいなのを作る事で、空中を歩ける魔法道具ですね。
制御が難しいので、運が良ければ使えるって言われましたよ」
「ほうほう。そういう物か。確かに難しそうだの。ちょっと使ってみてくれないか?」
「はぁ。良いですけど」
飛翔の靴に魔力を流して、階段を登るように空中を歩く。
見たいだろうと思ったので、椅子に座ったお婆さんの目線の高さまで登った。
「……なぁ。じっくり見たいのに、何で足踏みしてるんだ?」
「作った足場が1秒ちょいしか持たないからですよ。
足踏みしてないと落ちますんで」
「そういう事か。……どれくらいの重さまで大丈夫なんだ?」
「え~、子供を持ってるくらいは大丈夫でしたよ?」
「もう少し重くても大丈夫なのか?」
「さあ?」
それは俺も疑問に思ったので、地面に降りるとコタニさんを抱えてみた。
いわゆるお姫様抱っこって形だ。
「ヒャャャャ!! な・何っスか?!」
「ちょっと実験」
そのまま飛翔の靴を使ってみる。
おぉ! 登れた!!
女性一人くらいは大丈夫のようだね。
「ほうほう。それくらいなら問題無いのか。いや、後50kgくらいは耐えそうじゃの」
「判るんですか?」
「伊達に沢山の魔法道具を見てないわい!」
「ちょっと! いい加減に降ろしてあげなさいよ!」
おっと、ナグラさんに注意を受けてしまった。
まだコタニさんを抱っこしたままだったわ。真っ赤になってるし。
地面に降りてコタニさんを降ろすと、ナグラさんが「はい」って言ってきた。
どうやら自分も空中に連れて行けという事らしい。
おんぶの格好をしたら「なんでよ!」と怒られたので、またお姫様抱っことなった。
今度は天井ギリギリまで上がって降りた。楽しそうでなりよりです。
「素晴らしい! 売ってくれ!!」
「いや、売りませんよ」
「そうか。じゃあ譲ってくれ!!」
「悪化してる!! 譲りません!! 売りません!!」
「頼む~。老い先短い老婆の頼みじゃ~。この通り!」
「無理ですって!!」
宿屋の主人のいう通り、確かにこの人も変態だわ。
正確には魔法道具フェチ。
油断してたぜ……。
カジノの町の魔法道具屋さんで売ってましたよ、と告げて隙をみて逃げるように帰った。
案外、あそこの婆さんとは気が合うんじゃないかな?




