食事は必要です
次の日、大体の予定も決まったから出発したんだが……。
この旅は呪われてるのか?って思うほど、色々な事に遭遇する事になった。
初日。
何事も無く昼まで移動したので、道の横に止めて昼食。
すると、フラフラの旅人(中年の男)がコルラド国の方からやってきた。
身なりは裕福そうに見える。
でもそんな人が徒歩で移動? 普通は馬車とかじゃないの?
もしかして盗賊に襲われた?!
そう思い、近づいて話を聞く事にした。
「ちょっと! 大丈夫か?!」
「あぁ、すまない。だ・大丈夫だ」
「本当か!? フラフラだぞ?」
「ここ2・3日は水しか飲んでないからな……」
「どうした?! 盗賊にでも襲われたのか?!」
「違うんだ……」
違うとはなんだろう?
まぁ、襲われたんじゃないなら良いんだけどさ。
しかし、2・3日も水しか飲んでないなんて大変だ!
俺達の昼飯でも食わすか?
こういう時って胃に優しい物じゃないとダメなんだっけ?
とにかく、理由を聞こう。
「どうして、何も食べてないんだ? お金が無いのか?」
「いや、お金ならある……」
「食料を無くしたのか?」
「いや、最初から持っていない……」
「旅なのに、持ってない?! あぁ、旅じゃないのか?」
「いや、旅の途中だ……」
この人の言ってる事が理解できない……。
旅をしてるのに食料を持っていない。
持っているお金で道中に買えば良いのに、それすらもしてない様子。
どういう事なんだろう?
あっ、もしかして宗教的な事か?
断食とか日本でもあったじゃん。それか!
「もしかして、信仰の事ですか?」
「いや、私は無宗教だ……」
はい、違いましたー!
じゃあ手詰まりです。
今もキジマさんが昼飯を差し出しているのに拒否してるし。
何なの、この人。
「何で、そんなに頑なに食べないんですか?」
「……私はね、コルラド国の貴族なのだよ」
「は・はぁ……」
「コルラド国の事は知ってるだろう? 実力主義の国だと。
私には戦闘の才能が全く無かったんだよ」
「それは……」
「だがね、あの国の実力主義とは、多方面なのだよ」
「モリタ君、そうなのかい?」
「う~ん、私も詳しくは知りませんね。武の方にばかり集中していたので」
「何でも良いのだ。とにかく実力を示しさえすれば、周りは納得するのだ」
「はぁ。で、現状との関連は?」
「私の家に居た料理人は凄く優秀でね。毎日すばらしい料理を作ってくれていた」
あっ、判った。
多分、その料理人が何か失敗をして出てったんじゃない?
で、追いかけてきたとか?
「今でも家で美味しい料理を作ってるだろう」
あれっ? 違った。
なんだよもう! 早く結論を言えよ!
「それで鍛えられたのだろう。私は美食家と呼ばれるようになったのだ。
一口食べれば、使われた食材が全て判るほどになってしまった」
「そうですか。で?」
「逆に言えば、私は美味しい物しか食べられなくなってしまったのだ!
しかも自分の欲求には逆らえない! 今もまだ見ぬ美味しい食べ物を追い求めているのだ!」
「……そんな金持ちの道楽みたいな事を誇るように言われても……」
「何を言う! 美味しい物に貴賎は無い! 10円の物でも美味しい物は美味しいのだ! 判るか?!
それにだ! 料理は価格が重要なのだ! 料理に見合った価格なら納得も出来るだろ? 安くてもマズい物は食べないがね」
まぁ確かに、「高級品=美味しい」じゃ無いってのは理解出来る。
そして料理の腕もね。
価格も大事なのは判る。牛丼チェーン店が1杯1000円なら食べに行かないもん。
値段相応の味。これは重要。
「だから、私は美味しい物を食べ歩いて居るのだよ!
ここ2・3日は美味しい物に遭遇しなかったので、現在は空腹なのだ!」
よく判った。ただのバカな人だ。
マズい物を食べるくらいなら死を選ぶ。
常人には理解出来ない、そういう考えの人だ。
馬車で半日の道のりを進めばカジノの町に着きますよ。
そう伝えて別れた……。




