無謀
だが、そんな事はコイツには関係無い。
そういう事情も知らないだろうし。
しかし、ここはしっかりと言っておかなければならないね。
「誓って言うが、俺は使用人の事に対しては何もしていない!」
「ウソつけ! キサマ許さないからな!
この王都に住めなくしてやる! いや、この国に住めなくしてやる!!」
「ほう、大きく出たな」
「夜道には気をつけろよ。いや、日中も人気の無い道は気をつけろよ。フフフ」
横にネモト卿が居るのに、脅し始めちゃったよ。
お前が住めなくなるんじゃないか?
いや、他国にも居場所は無いかも。もしかしたら病死と発表……?!
「お前さ、大人しくした方が良いぞ?」
「フッ、ビビッたか? フフフ、覚えておけよ」
そう言ってバカベは去っていった。
まぁ、早く帰らないとね。
メシは食べに出ないといけないから。
「今のが例の人物ですか」
「はい、そうですけど」
「襲撃予告していきましたね。しかもあの言い方では言い逃れは出来ませんよ」
「ですよねー」
「福田様の家の周辺に兵士を隠して配置しておきましょう。
すみませんが囮をお願いしても?」
「囮ですか? 普通、襲撃前に捕まえるのでは?」
「ついでに犯罪に加担する者も捕まえたいので」
「そうですか……」
うわ~、利用する気マンマンだ。
あの貴族に協力する悪い人~、罠ですよ~。
いや~、いまだに何の被害も受けてないので、コッチが悪いような気がして来たわ。
いや、悪いのはあっちだけどさ、コッチは罠だらけだぞ?
折角忠告してやったのになぁ。
いや、あの場面だと、逆に煽った事になるのか?
バカベと別れ、バトラーギルドに入る。
ギルドマスターを呼ぶのかと思ったら、そのままギルドマスターの部屋へ直行。
ノックもそこそこに、さっさと入室してしまった。
「これは福田様。今日は何用で?」
「いえ、自分は特に用は無いのですが……」
「久しぶりです」
「ん? あっ! ネモト卿ではないですか! お久しぶりです!」
変装を解いたネモト卿を見て驚いてる。
でもすぐに立ち直るとは! やはり出来る人は違うな。
それからは二人で何か色々打ち合わせをし始めた。
俺はよく判らないので、1人で飛翔の靴の練習。
少し足を浮かせて、そこに足場を作る。
移動の時は片足づつだけど、留まるには両足に足場が必要だ。
だが、同時に作ると同時に無くなってしまうので危険。
なので、ほんの少しだけずらして作る練習。
判りやすく言えば、その場で足踏みしてるような感じ。
打ち合わせが終わる頃には、何とか形になった。
「話は終わりましたよ、福田様」
「そうですか。では帰りますか?」
「そうですね」
「では。お邪魔しました。……あっ、最後に良いですか?」
「何でしょうか?」
「例の貴族の家から使用人が逃げ出したようなんですが、ヤザワさん何かしました?」
「いえ、特には。あぁ、ヒタキ君が『メイドギルド』の前で何か喋ってましたね。珍しく大声で」
「そ・そうですか。じゃあ、帰ります。お邪魔しました」
それだな。
大声なのはわざとだろうね。
きっと「あの家に勤めるなんて、ダメな使用人に違いない」みたいな事を言ったのだろう。
事情を喋らずにあくまで間接的な言い方。
で、それを聞いた人は周りに話しただろうな。
自分の名声まで利用してますね。恐ろしい人だわ~。




