メイドと貴族
入金も終わったので、帰るとしよう。
ギルドマスターの部屋を出て1階のホールに出た。
訓練校に行くにも各ギルドに行くにもこのホールを使うので、広いホールだ。
丁度訓練校の休憩時間と重なったようで、人が多い。
「いえ、休憩時間ではありませんよ」
「そうなんですか?」
「今居るのは勤めながら訓練校に通っている人達ですね」
「あぁ、だから遅いのですね?」
「朝の仕事をしてからですので。どこも朝は忙しいですからね」
大変だなぁ。
でも給料を貰いながら通えるって良いね。
まぁ、それで留年や退学になったらクビになりそうだが。
「もう少しすれば授業開始時間になりますので人が減るでしょう」
「そうですか。じゃあ少し待ってから帰りましょうか」
横に待合室があったので、そこで待つ事に。
今もヒタキさんをチラチラ見る目があるが、ギルドマスターが何か言ってくれたようで過剰では無くなってる。
鬱陶しいけどね。
だって俺を見る目もあるんだもん。
多分「あいつが主人?! マジで~?!」って思ってるに違いない。
俺を見る目には、羨む目や憎む目が多いんだ。
まぁどうしようもないので、甘んじて受けよう。
入り口をじっと見て、中の人と目が合わないようにする。
すると、どこかで見た女性が入ってきた。
「ヒタキさん。あれ」
「はい。うちのメイドですね」
やっぱり。俺が拾った事になってるメイドさんですね。
さっき通ってるって言ってたもんな。
目で追っかけてると、メイドさんに近づく男が1人。
知り合いかな?
でも何か口論みたいになってきた。
周りが見えて無いようなので、俺達はコッソリと近づいてみる。
いや、野次馬じゃないからね? うちのメイドを心配しての行動なんだよ。
「離して下さい!」
「いい加減にしろよ! 俺が迎えに来てるんだ! 大人しくついて来いよ!」
「もう私は貴族ではありません! 雇われてる身です!」
貴族だった頃の知り合いか?
知り合いって言っても良い方のじゃ無さそうだけど。
あの男は貴族の息子なのかな? ちょっと偉そうな態度だ。
貴族の息子が偉そうにするっていうのは定番だしね。
「雇われてる? じゃあ俺がその家に話してやろうじゃないか。
そうすればその家も喜んでお前を渡してくれるさ!」
すげぇ! 正にテンプレの小物って感じだ!
感動したっ!
テンプレを体験するために、ここは要望通り話に行こうじゃないか。
「そうです。私が変なおじさん、ではなく、彼女を雇っている者です」
そう言って近づくと、メイドさんは俺の後ろに隠れた。
それを見て男の顔が怒りに染まる。
「お前が雇ってるのか。……ふん、貴族じゃないな。どこかのボンボンか? 名乗る事を許してやるよ。言え!」
俺を上から下まで見てからそんな事を抜かしやがった。
ボンボンはお前だろうが!
相手を見極められずに偉そうな態度を取るっていうのはテンプレ通りだが、当事者になるとイラッとするなぁ。
さっさと退散してもらう方が良いか。
「福田って言うんだけどね。知らないかな?」
「福田? まさかギルドマスターの?!」
「ギルドマスター? あぁ冒険者ギルドのか。いや、違うよ? 関係無いよ」
「ちっ、脅かしやがって。じゃあ知らないね!
俺はマカベ伯爵家の息子だ!」
マカベ? 伯爵?
知らないな。と言っても、ほとんどの貴族を知らないんだけどさ。
いや、待てよ? マカベって聞いた事あるぞ?
思い出せ、俺!




