過去を振り返る日
運命とは不思議なものである。
いや、めぐり合わせとか縁とかそういった類かもしれない。
俺が何でこんな詩的な事を言ってるかと言うと、巻き込まれたからだ。
簡単に言えば、ナンパである。
冒険者の男が冒険者の女性をナンパしてたのだ。
いや、ナンパじゃないかも? パーティーに勧誘?
まぁ、そんな感じだ。
で、何で運命とかめぐり合わせとか考えてるのかと言うと、女性に見覚えがあったから。
正確に言えば、女性が俺を覚えていたんだけど。
で、この女性、ナンパ(?)を断る為に俺の方へ来て「この人のパーティーに入る事になってるんです!」と言ったんだ。
その後、俺の後ろに隠れてる。
俺は冒険者の男に睨まれてると。
ちなみにこの女性。
ヒハラ? チハラ? とにかく、あのイケメンとの勝負の時に、俺がタルーンさんの店に連れて来た人なのだ。
よく覚えてたね。言われて初めて気づいたよ。
さて、こんな状況だ。
現実逃避してもいいだろ?
「おい、お前、誰だよ?!」
う~ん、面倒くさい。
断られたのだから諦めろよ。
「え~、冒険者です」
「そんな事は判ってるんだよ!」
自己紹介したのに怒られた。
まぁ、バカにしてるのは認めるけども。
「そんな冴えない男のパーティーに入るより、俺達のパーティーの方が稼げるぜ。
なぁ、こっちに来いよ」
「イヤです!」
俺は相手にならないと判ったようだ。
また勧誘を始めた。速攻で断られてるけど。
するとまた俺を睨んできた。俺、何もしてないじゃん!
「お前、貯金はどれくらいあるよ?!」
「はぁ?」
「貯金だよ! まさか借金持ちか?」
「何で言わないといけないんだ?」
「いいから答えろよ!」
えっ、貯金の額で優位に立ちたいの?
それでなびく女なんて俺はイヤだけどなぁ。
「え~と、現在の貯金は……3000万くらい?」
「はぁ?! ……それってドンか?」
「何でベトナムの通貨単位を知ってるのかは謎だが、円だよ、円」
1円=200ドンくらいのはず。
って事は15万円か~。
それくらいの金額なら、きっと今日女性陣が買い物で使ってるんじゃないか?
貯蓄額を聞いて、男は驚いたようだ。
だが、すぐにヤル気を戻してきた。
どうやらウソだと思ってるらしい。
「ふん。口では何とでも言えるからな。お前冒険者のレベルは何だよ?!」
「だから、何で言わなきゃいけないんだっての」
「いいから言えよ!」
「え~と、赤になる予定?」
「何だよ、予定って!! それなら俺だって赤になる予定だわ!!」
だって、まだ貰ってないんだもん。
お前の予定なんか知らねーよ。どうでもいいよ。
ってさぁ、俺、まだここに居なきゃいけないの?
「えっと、帰っていいかな?」
「てめぇ、ふざけんなよ! 俺と勝負だ!」
「おう、てめぇ! 外に出ろ!」
「ふん、覚悟を決めたか。死なない程度にいたぶってやるぜ!」
そう言って男は外に出て行った。
良かった、面倒は去ったようだ。
「無事で(?)良かったですね。じゃあ帰りますんで」
「えっ? 行かないんですか?」
「外には出るけど、勝負なんかしないよ?」
「「「「はぁ?!」」」」
その場に居た全員から驚かれた。
「あ・あの、さっき外に出ろって言われましたよね?」
「うん。でも勝負を受けてないよ?
邪魔だし迷惑だから外に出ろって言ったんだけど。
あぁ、あいつ、勘違いしたのかな? 勝負するって。
何かカッコイイようなセリフを言いながら出てったけど、恥ずかしいね~」
「「「「……」」」」
あれ? 今度は静かになったな。
何も間違えてないんだけど。
さ、裏口からでも出て、家に帰るとしよう。




