湖
「お~! 希望してた物が丸々入ってるよ! ありがとう!
じゃあ、もう帰って良いから」
「あっそう。じゃあ帰るわね」
えっ?! アサイさんが素直に帰るだと……?!
明日は雪が降るのか矢が降るのか、いや、世界の終わりかもしれない。
「アサイさん、変な物でも食べた? 虫とか」
「食べないわよっ!」
「だって、素直に帰るなんて変じゃないか……」
「用事があるの! 今もちょっと立ち寄っただけだから」
「ふ~ん。どんな用事か聞いても良い?」
「……なんでよ?」
「悪巧みでもしてたらイヤだから」
「失礼ね! 閻魔様に頼まれてる事をしてるのよ。
……そうだ! このまま福田君に押し付ければ……」
「聞こえてるぞ! やっぱり悪巧みじゃないか!」
「ちょっと待っててね! 紹介したい人が居るから、連れて来るわ!」
「コラ! 待て! おい!」
アサイさんめ! 消えるように転移しやがった!
紹介したい人だと?! どう考えても厄介事にしか思えない!
止めたいのだが、止める方法が無い!
逃げても移動した先に現れるだろうし、くそっ、手詰まりかっ!
「お待たせ! 連れて来たわよっ!」
「どこのどちらさんですかねぇ、その男性は」
「ん? 何だ平民。うるさいぞ?」
「……どこのバカ野郎ですかね? アサイさん?」
初めて平民呼ばわりされたわ。
確かに平民だけど、初対面のヤツに言われる筋合いは無いぞ。
さすがに俺もイラっとしたよ?
「こちらは閻魔様の息子さん。名前は……」
「ふむ。俺の名前を知りたいかね? では教えてやろう平民よ。
私の名前はミズウミ! 湖のような大きな人物になれと名づけられたのだ!」
何だ、このバカは。
イライラするね。
それにしても閻魔様よ、その名前はどうだろう?
何故『海』にしなかったの? 湖って微妙な広さじゃない?
日本最大の琵琶湖でも670k㎡だよ?
あっ、世界で考えれば良いのか?
世界最大ってカスピ海だっけ? 374000k㎡もあるもんね。
って言うか世界で考えても、海の方が広いよ!!
「おい、平民。俺が名乗ったのだ。キサマも名乗らんか!」
「福田だ」
「キサマ! 偉そうだな! 平民のくせに!!」
「アサイさん、イイクラさんに連絡するけど良い? 良いよね?
ダメって言っても、もうタブレットでコールしてるけどね」
「キサマ! 何故イイクラを知っている?! そして、何故連絡をするのだ! 止めないか!!」
閻魔様に直接文句を言いたくなったよ。
その為にはまずイイクラさんだ。
閻魔様とは面識が無いからね。
バカを片手で制しながら、タブレットでイイクラさんと繋ぐ。
『福田さん、お久しぶりです。この度は会えなくてすみません。
今日から三途の川勤務に戻りまして。アサイに届けるように頼んだのですが、届きましたでしょうか?』
「はい。受け取りました。ありがとうございます。
それでですね、ちょっと閻魔様に話したい事がありまして……」
『閻魔様に?! 何事でしょうか?!』
「今ココにですね、息子を名乗るミズウミってのが来てまして」
『?! 何故そこにミズウミがいるのでしょうか?!』
「えっとですね、アサイさんが連れて来まして。
しかも押し付けるつもりらしいのですが」
「ちょっと! 私まで巻き込まないで!」
「それでですね。本物かも判らないし、何の為に来てるのかも知らないので閻魔様に聞こうかと。
お忙しいとは思いますが、ちょっと繋いでもらえませんか?」
『……判りました。少々お待ち下さい』
アサイさんとミズウミは、誰が見ても判るほど狼狽えている!
逃げるを選択した!
だが、福田が回りこみ逃げれない!!




