取り潰し事情
新たに雇うメイドは、夜に一度会いに来るそうだ。
まぁ、ヒタキさんの事もあるしなぁ。1回来ておいた方が良いだろう。
なので、夜になるまでにヒタキさんには話をしておく事に。
「ヒタキさん、ちょっと良いかな?」
「何でしょうか、ご主人様」
「……ご主人様ってのは止めてよ。名前で良いから」
「では、福田様」
「様もいらないんだけどなぁ」
「いえ、そこは譲れません。雇い主ですから」
堅いなぁ。
まあ長年城で執事をしてた分、そうなってもしょうがないのかもしれないが。
「えっとね、新しいメイドを1人増やす事にしたから」
「そうなのですか? 何も聞いておりませんでしたが」
「今日決めたからね」
「そうですか。ではどのような人物なのでしょうか?」
「ん? 聞くの?」
「はい。メイドギルドを通してない人事のようなので。お伺いしたいと思います」
そうか。普通はメイドギルドを通して決めるのか。
多分だけど、メイドギルドに1人雇いたいと言うと、条件に合った人を紹介してくれるのだろう。
それを飛ばして雇うって言うんだから、どういう人物か知りたいと。
「ちょっと縁があってさ、道で拾ったんだ」
「イヌやネコでは無いのですから、気軽に拾わないで頂きたいですな」
「そこはゴメン!」
「まぁ良いです。しかし今後は気をつけて頂きたいですね」
「判ったよ。反省します。
で、明日から来てもらうつもりだけど、一応今日の夜に面接に来るから」
「おや、拾われたのでは無かったのですか? もう会われていると思ってましたが」
「……そう、ヒタキさんへの面接だよ!」
「……そうですか。 判りました。
雇う事は決まっているようですし、どのような人物でも使い物になるように教育致しましょう。
ついでに今居るメイド達も同時に教育しますかね」
「よ・よろしく頼みます」
察しが良いなぁ。どうもバレたっぽいぞ?
ガンバレよ、メイドA(名前知らないや)。
俺に直訴する根性があるんだ。ヒタキさんの教育も乗り切れると信じてるぞ!
夜になり、メイド候補がやって来た。
だが、この娘、何かおかしい。
メイドか? 俺にはメイドが仕える人って感じに見えるんだが。
「よろしくお願いします」
「あ・あぁ、よろしく。家が取り潰しなんて大変だったね」
「いえ、自業自得でしたので、しょうがありません」
あれっ? やっぱり何か会話がおかしいよな。
もしかして、この娘……。
「ちょっと良いかな?」
「何でしょうか?」
「メイドの経験はどれくらい?」
「恥ずかしながら1度もありません」
「あっ、やっぱりね……」
想像通りだ!
この娘はメイドをしててクビになったんじゃなくて、取り潰しになった家の娘じゃないか!
騙したな! あのメイドめ!
で、ヒタキさんは判ってたみたいだな。さすがスーパー執事!
「え~と、うちのメイドなんかで良いの?」
「はい。働かなければ生きていけませんから」
「……あんまり事情を知らないんだけど、そうなの?」
「はい。私の家は貴族でしたが、取り潰しになり父は死刑になります。
取り潰しの場合、財産も没収されるので一文無しです。
母は実家に帰りましたが、ついて行きませんでした」
「それはなぜ?」
「そこに行くと、知らない人と結婚させられるからです。
それに友人の多い王都を離れる事にもなりますし」
「だから住み込みのメイドをするって事?」
「はい。よろしくお願いします」
取り潰しなんて、どうなるのか知らなかったよ。
結構大変な事態なんだな。
悪いのは父親だけなのに、家族も被害を受けるのか。
悪い事をしたんだからしょうがないけど、巻き込まれた家族は不幸だよなぁ。
「判った。じゃあ雇う事にするよ。
詳しい事はココに居るヒタキさんに聞いてくれれば良いから」
「判りました」
「ヒタキさん、よろしくね」
「了解しました。1ヶ月で立派なメイドに育てて見せましょう」
おおぅ。スパルタですか?!
大して居ない家主なんだから、2~3ヶ月かかっても問題無いんだけどなぁ。




