シンデレラ・中
「え~と、娘。舞踏会の招待状を貰ったわ。城に行って食事にしましょう。
タッパーを忘れずに持っていくのよ! 明日以降の食事なんだから!」
「判ったっス! ママ!」
「シンデレラは留守番してなさい! すじ肉を煮込んで食べられるようにしてなさい!」
「判りました」
「こうして継母と娘はシンデレラを置いて、城に行きました」(ホウズキ)
やっと事態が動いたか。
それにしても、世知辛い話だな。后の座を狙う話だったと思うのだが。
いつの間にか食事の話になってる気がする……。
「あぁ、私も舞踏会に行きたかったなぁ」
よし、出番だな。
コンコン
「誰ですか?」
「こんにちは」
「いや、だから誰ですか?」
「えっ? え~と、昼間助けてもらった魔法使いです」
「何の御用でしょうか?」
「え~と、まずは開けて入れてもらえませんか?」
「今、私しかいないので、ちょっと」
「知ってるよ。だから来たんだ」
「うわっ! ストーカーですか?!」
「違うわ!」
「じゃあ何で誰も居ない時を狙って来たんですか?!」
「確かに怪しいけどさ! そうじゃなくて! 舞踏会に行きたくないかい?」
「そんな事まで知ってるなんて! やっぱりストーカーだ!!」
「違うって言ってるだろ! 話が進まないから納得しろよ!」
舞踏会に行かせる為に来たのに、ストーカー扱いとはヒドイ!
まあ、女性が1人になった所に男が訪ねてくれば入れちゃダメだけどさ。
なんとか納得して入れてもらった。
「で? どうするってのよ!」
「何で強気なのか判らないけどさ、舞踏会に行かせてあげようと思って来たんだよ」
「すじ肉の煮込みはどうするのよ!」
「帰って来るまで、俺がやっとくよ! ちゃんと火加減も見とくから!」
「着ていくドレスなんか無いわよ?」
「おぉ、やっとまともなセリフが! それなら大丈夫、用意してきた」
早着替えとか無理なので、着替えてもらう事に決めたんだよな。
本当なら魔法でパッと変えるんだけどさ。
「服のサイズまで知ってるなんて、やっぱりストーカー……」
「……ストーカー設定は置いておこうか。とにかく、そこで着替えてくれ」
そう言って、布をかけて作った簡易試着室で着替えてもらう。
「着替えたわよ。でも何でスリッパなの?踊りにくいわよ?」
「城は土足厳禁なんだよ! 流せよ!!」
「招待状が無いと入れないわよ?」
「それは持ってるから大丈夫。はい、これ」
「貴方、泥棒さん?」
「今はこれが精一杯……って違うわ! 緑のジャケット着てないだろ!」
「そんなネタしても誰も知らないわよ?」
「お前が『泥棒さん』って振るからだろ?!」
「どうやって城まで行くのよ?」
「急に戻した! え~と、そこに居るネコに魔法をかけよう。え~い!」
魔法をかけた事にして、腕時計からガーに出てきてもらう。
ネコがトラになったって設定だ。
「このトラに乗って城に行きなさい。
12時になったらネコに戻るからそれまでに帰るんだよ?」
「歩いてでも帰るわよ?」
「ダメダメ、夜道は危ないから! お願いだから乗って帰って!」
「親と合流すれば、安全に帰れるわね」
「12時に帰れって言ってるだろ?! え~と、え~と、あっそうだ!
俺、12時になったら帰るからな。すじ肉も火にかけたまま帰るからな!」
「くっ、すじ肉を人質に取るとは卑怯な! 判ったわよ、12時には帰るわよ!」
よし、やっと納得してもらえたか。
これで12時に城から逃げるっていうイベントが出来るな。
「ところで、ネコをトラにした魔法だけど、どういう原理?」
「はぁ?!」
「魔法は科学が大事なのよ! どうやったの?! 質量増加?!」
「そこはファンタジーでいいじゃないか! 流せよ!」
「重要な事よ?! 流せないわ!!」
頑張って適当な説明をして、なんとか納得してもらった……。
本当なら、もう舞踏会終わってるんじゃないか?
さっさと行ってくれよ!




