恋?
謁見の間で見る王様は、俺と同じくらいの年に見える。
若い王様だな。ニーベル国では孫が居るくらいなのに。
あぁ、だから早く引退しろってヌマタ卿が言うのか。納得だ。
「よく来たな。堅苦しいのはナシだ。俺はマナベ、この国の王だ」
事前に大使館の人に聞いてた通りのポーズをしようとすると、そう言われて制された。
どうもフランクな王様らしい。
周辺をよく見れば、並んでる貴族も若い人が多い。
40~50歳くらいで引退って決まってるのだろうか?
「で、今日は何の用だ? 帝王さんよ?」
「……何故、その呼び名を知ってるのですか?」
「敬語を止めないと教えてやらないね」
「……何で知ってるんだよ」
「ショウタケに聞いた」
「ちっ、あの野郎!」
「ふははは、お前も苦手のようだな! 俺もだ!」
「あいつは優秀だが、ボケるのが趣味だからな。気に入った相手には、すぐにボケてくるぞ!
おっと、で、福田だったな。何の用だ?」
「あぁ、そうでした。実は……」
「おっと、敬語は禁止だ! 忘れるなよ?」
「……判った。今日は着任の挨拶と、今後の予定を話に来たんだ」
「あぁ、新しい外交官だってな。頑張ってくれ。で、今後の予定とは?」
実に話が早い。
フランクなのはアレかもしれないが、簡潔に話が進む。
「善処します」とか言う、前世の日本の政治家にも見習って欲しいものだ。
「実はこの隣に居るハズキ君は、ニーベル国の王の孫なんだよ。
今、ここの学校に通ってるけど、用事が出来て2日後に一度帰ろうかと思ってるんだ。
その時は俺も一緒に帰るから、その報告に」
そう伝えると、貴族の1人が異様に狼狽しだした。
まさか、この人が黒幕か?! いや、そんな判りやすい人が黒幕の訳が無いか。
「そういう事か。判った。
で、おい、お前! 何を客の前でうろたえている! 失礼だろうが!」
「す・すみません……。ちょっと気になる事がありまして」
「敬語で喋るなって言ってるだろうが。で、何だよ」
「少し福田殿に質問してもよろしいでしょうか?」
「おう、良いぞ。福田もそれで良いな?」
「はい」
何が気になったのだろうか?
着任して挨拶をしたのに、もう帰る事だろうか?
それとも帝王の事か? その件なら何も話さないぞ!
「そちらに居るハズキ殿は、どちらの学校に通われているのですか?」
「王都にある、民間の魔法学校ですが。正式名称はちょっと知りませんけど……」
「もしかして、1年前にも通われてましたか?」
「え、ええ。少しだけですが。それが何か?」
「そうでしたか……。ありがとうございます……」
何だったのだろう?
王様も気になったようで、追従してきた。
「おい、質問だけして、1人で納得するな!
ここで全員に判るように説明しろ!」
「す・すみません! 実は私の娘が同じ学校に通ってまして」
「ほう、聞いた事あるな。で?」
「去年の事でした。転校生が来たとはしゃいでいたのですが、すぐにまた転校してしまったそうなのです。
それで凄く落ち込んでいました。そこで聞いた名前が『ハズキ』だったのです。
あまりの落ち込みように可哀相になりまして、人を雇って探させたのですが返事が無く。
困っていた所、今年になってまた転校して来たと喜んでおります」
「それで、そこのハズキ君と同一人物なのでは? と思ったんだな?」
「その通りです」
「で、また2日後に帰ると聞いてうろたえたのか?」
「はい……」
何とも微笑ましい話だなぁ。
娘の初恋なんだろうな。男親としては認めたくないけど、落ち込んでるのは可哀相。
だから人を雇って探したのか~。でも返事が無い。
んん?! あれれ?! な~んか引っかかるぞ?!
「ちょっと良いでしょうか? 聞きたい事があるのですが」
「ん? 何だ? 敬語じゃ無ければ許すぞ?」
「あっそう……。えっと、人を雇ったのは最近の事?」
「いえ、半年前くらいです」
「今まで『ハズキ』という名前しか知らなかった?」
「はい。他国の王様の孫と聞いて驚いております。知っていれば探すのは簡単でしたが……」
……もしかして、この人が黒幕なんじゃないだろうか?
いや、黒幕って言うよりも、依頼者が正しいかな?
頼んだ相手が悪かったけどさ。
こりゃちょっと詳しく聞かないといけないな。




