院長
ノックしても返事があるだけでいつまでも入れないので、もう扉を開けてやった。
すると中では20代くらいの青年が着替えをしていた……。
「きゃーーーー!」
「いや、野太い声でキャーとか言われても……」
「ちぇっ、ノリが悪いなあ」
「確信犯かよっ!」
「まぁいいや。どうぞ、入って。あっ、座ってください」
「……どうも」
何だろう、この人は。
あまり相手にしたくないタイプな気がする……。
「どうも、わたくし、ここの院長をしているショウタケと申します。どうぞヨロシク!」
「はぁ。えっと福田です。よろしく……」
手を差し出してきたので、とりあえず握手をする。
なんかどっかで見た事ある気がするな、このメガネの人。気のせいだろうか?
「ウワサは聞いてますよ」
「どんなウワサですか?!」
「襲ってきた敵に恥ずかしい目にあわすのが趣味だとか」
「濡れ衣だ!」
誰だ、そんなうわさを流してるのは!
確かに裸にして木に縛ってきたけどさ、趣味では無いぞ!
「他には、ギャンブルで相手の身ぐるみを剥いで裸にするとか。裸好きですね」
「それも何か間違ってる!」
ギャンブルで負かす事はあっても裸にまでしてないぞ!
「ケンタウロスの人と城でプレイしたってのも聞いてますよ。アッチの世界の人ですか?」
「プレイって何だよ! ちょっと脅しに使っただけだよ!」
「えっ、脅してプレイを?!」
「だから、プレイって何だよ! してないわっ!!」
「え~、してないんですか~。じゃあもういいです」
「もういいです、じゃないよ! 挨拶しに来たんだよ!」
「いい、いい、そういうのいいから。プレイしてきてください」
「プレイ言うな! そもそも誰だ! そんなウワサ流したのは!」
「兄ですけど?」
「兄って誰だよ!」
「判りませんか? わたくしよりも先に生まれた男の兄弟の事ですよ」
「兄の説明を聞いたんじゃないよ! 兄の名前だよ!」
「ショウタケですよ。当然じゃないですか」
「それは判ってるよ!!」
うわ~、話が進まね~。誰か助けて欲しい!
ナグラさんの方が100倍マシだわ。
「兄ってのはどこの誰だって聞いてるんですけどねぇ!」
「貴方の兄ですか? どこに居るのか知らないですねぇ」
「お前の兄だよ!!」
「わたくしの? 兄なんていませんけど?」
「お前が兄の話をしたんだろ!!」
「あぁ、忘れてました。居ます居ます。で、兄が何か?」
「ウガーーーーー!!」
話してると気が狂いそうだ! 話が通じないと言うより、話の軸がズレる感じ。
どうにか軸を戻したいんだけど、すぐにズレていく……。助けてーっ!
「ふぅふぅ、で! その兄って誰!!」
「兄もショウタケ……」
「それは聞いた!! そのショウタケ兄は何処に住んでるのかって聞いてるの!」
「兄はニーベル国に居ますよ」
おぉ! やっとまともな情報だ! って範囲が広すぎるわ!!
「ニーベル国のどこ?」
「国内です」
「そりゃそうだろ!! ニーベル国に住んでるのに国外に居るっておかしいだろ!」
「えっ? 旅行とかで出てるかもしれないじゃないですか? そうでしょ?」
「ぐぬぬぬ……」
今度は突然まともな事言い出した!
嫌がらせか? 嫌がらせだろ?!
「で?! ニーベル国の国内のどこに住んでるの?」
「しょうがないですね。教えてあげましょう。個人情報ですけど、特別ですよ?」
恩着せがましいが、ここは黙っておこう。ツッコむとまた長くなりそうな気がするから。
「兄は夏双旅館を経営しております」
あぁ、全て納得出来た……。
あの旅館の主人の血筋か……。
この孤児院には、近寄らない方が良さそうだ。
って言うか、あの主人は、何で俺の事知ってるんだよ! 怖いわ!!




