一騎打ち?
カンダさんが馬車から降りて、一人で対面する。
「お前が一騎打ちの相手か」
「……」
「約束は守ってもらうぜ」
「……」
カンダさんは喋らないし、首も動かさない。
つまりは肯定も否定もしてないのだが、ボスは勘違いして勝手に進めていく。
「お前の武器は剣か。それで俺に勝てるかな?」
「……」
「ふん、ダンマリか。まぁ良いだろう」
「……」
おっと、だんだん調子に乗ってきたようだね。
このまま見てたら、色々と喋ってくれそう。沈黙は金だね!
「ふっ、俺も焼きが回ったみてぇだな。こんな若造にいいようにされるとは」
「……」
「だが、まだまだ引退する気は無いんでね。お前らを捕縛してもう一度雇ってもらうさ」
「……」
へ~、結構な年なんだね。覆面で顔がよく見えないから判らなかったよ。
しかし、『一度雇ってもらう』とはどういう事?
雇われて襲ってるんじゃないの?
「おっと、話はこれで終わりだ。詳しく聞きたきゃ、俺を倒してみな。
出来たらの話だけどな! じゃあいくぜ、って何だこれは! やめろ! 血を吸うなーーっ!!」
はい、チョロが背後から噛み付いて吸血しました。
剥がそうと暴れてるけどさ、チョロってヒドイんだよね。
ファントムだから触れないのに、牙だけは実体化して血を吸うんだもん。
ボスの持ってる武器がエンチャントでもされてたら、攻撃出来ただろうけどねぇ。
あっ、ボスが倒れた。これで全員捕まえたかな?
「お疲れ~。無事だったかい?」
「あの程度、どうって事ありませんぜ」
チョロが飛んできたので、労わっておく。
口直しにイチゴをあげると、レイと一緒に食べるとの事。優しいなあ。
部下はいつも通り裸にして木に縛る。
ボスは寝ていないが動けないので、武装解除して縛るだけにしておいた。
覆面を取ると、白髪の混じった初老のオッサンだった。
「汚いぞ! 一騎打ちって決めたじゃねぇか!」
「いや、そっちがそう言っただけで、誰も受けてませんよ?」
「そっちの男が1人で出てきただろうが!」
「敵、あなたの事ですけど、が居たから、護衛の為に出たんですよ」
「いい加減な事言うな!」
「じゃあ、落ち着いて振り返ってみてくださいよ。誰か応じてましたか?」
「……クソッ!」
どうやら判ってもらえたようだ。
普段なら引っかからないだろうけど、簡単に部下が負けるのを見て焦ったんだろうね。
「じゃあ、全て話してもらいましょうか」
「待て! 負けたら手を引くって事だったろうが! それにアレは一騎打ちでの話だ!」
「何言ってるんです? 一騎打ちでの決まり? 関係無いですよ?
そもそも、これは尋問ですから。拷問じゃないですよ。じ・ん・も・ん、です。判りましたか?」
後ろの方では女性陣が、「黒いですね」とか「汚いっス」とか「チョロ影薄い」とか言ってる。
誰が黒くて汚いんだよ! 勝ったんだから正当な権利でしょ! それにチョロの事は関係無いだろ!
きっと運が1づつ回復してるだろうけど、心にダメージがくるよね。
「さぁ、話してもらいましょうか?」
「……」
「おや、今度はそちらがダンマリですか。話さないなら良いんですよ。
ニーベル国の警察か軍に引き渡すので」
「はぁ?! 何故ニーベル国?! ここはノートルダムだぞ?!」
「自分はニーベル国の外交官なのですよ。知らなかったんですか?
だからどちらの国に渡しても良いんですよ。自国に引渡してヌマタ卿に尋問してもらおうかな?」
「ヌ・ヌマタだとっ!! 判った! 喋る!」
本当にヌマタ卿は昔何をしたのだろうか?
聞いてみたい気もするが、聞かない方が良い事も世の中にはあるだろう。
「大体、最初から胡散くせぇ話だったんだよ!」
「じゃあ、その最初から話してくださいよ」
「おう、判った」
こうしてボスは語り出した。




