オールクリア!
少しするとドラゴンは毒から回復したらしく、立ち上がった。
「あ~、ヒドい目にあった……」
「人聞きが悪いですね。ヒドい条件を出したのはそっちでしょ?」
「もう少し戦ったら、傷が付いた事にしてクリア扱いにしたわい!」
「え~、終わってからなら何とでも言えますからねぇ」
「何じゃこの人間は! こんな扱いを受けたのは初めてだ!!」
「だって、トムさん禁止にするし」
「しょうがないだろう?! 見ただろ、お前達!
素手でワシの鱗を毟るようなヤツだぞ?! 相手なんか出来るか!!」
確かにアレは恐ろしかった……。
剣も通さない鎧のような鱗を、ブチブチと毟ってたもんなぁ。
「そして、人間! その後の攻撃はなんだ?!
鱗の無い所をチクチクと攻撃しおって! 何度も止めてくれと言ったぞ?!」
「えっ? 全く聞こえませんでしたよ?」
「お前が毒なんか盛るからじゃ! 痺れて言葉にならなかったわ!!」
「それは結果論ですよ。終わった事をクドクド言うなんてドラゴンらしくありませんよ?」
「……こんなエゲつない人間は初めてだわ。
ワシ、生まれて初めて人間に恐怖したわ……」
失礼な。それに攻撃したのは俺だけじゃないぞ?
皆でレベルアップの為に攻撃したんだからな?
そう思って周りを見ると、誰もが目を逸らしている……。
ちぃっ! 俺だけに罪を被せる気か?!
「とにかく、お前達はクリアじゃ!
だからさっさと行ってくれ!! 頼むから、な? な?」
「あっ、そうだ。毟った鱗は貰っても良いですよね?」
「それくらいくれてやるわ! だから早く行け!」
「くれるのか……じゃあ牙とか爪とかも取っとけば良かったか?」
「悪魔じゃ……いや、魔王じゃ!
トムよ、よくこんな人間の従魔なんかしとるのぉ。尊敬するわ」
「えっ? うん、いや、まあね。何だろう? なりゆきと言うか……知らなかったと言うか……」
俺が考え事をしている内に、何かひどい事を言われた気がする。
ドラゴンさんや、恨むなら俺じゃなくダンジョンマスターをね。
ダンジョンマスターが、貴方をここに配置したのが悪いのだから。
「ついでにもう少し鱗をくれませんか?」
「無理矢理抜かれるのも痛いのだぞ?!
そうだ! ここに前に抜けた牙がある。これをやろう! だからこの話はこれで終わりな!
ほれ、持って行け。そこに扉があるからさっさと行け! 大事な用があるのだろう?!」
何故か牙を貰った。
鱗の方が良かったのだが、まあ9枚もあれば良いか?
いや、コレを2トップの土産にしたい。
王にも1枚やるとして、残り6枚か。全員で1枚づつなら1枚足りないな。
「前に抜けたって言ってるけど、虫歯じゃないだろうな?
そんな病気の牙だったらいらないぞ? 返しに来るからな?
後、1枚足りないから頂戴」
「……1枚やったら行ってくれるか?」
「8枚くれたら速攻で出て行くね」
「……判った。ワシも男だ! トムよ! 8枚ほど毟るが良い!!」
オスだったか。
しかし、ビクビクしながら鱗を毟られる様は、男だ!って宣言する割には情けないなぁ。
俺のせいだけどね。
トムさんは8枚ほど鱗を取って俺に渡し、一言。
「……送って頂戴」
「もう帰るのですか? メシ奢るってのはどうします?」
「……いえ、今日は疲れたから帰るわ」
「そうですか。判りました。じゃあ送ります」
こうしてトムさんは、何故か疲弊した顔で帰って行った。
俺達はドラゴンが示した扉から出る。
そこにはテーブルが一つだけあり、近衛アリが受付をしていた。
「お疲れ様です。これでクリアとなります。シロ様ご一行が1着ですね。
そちらの扉が出口となっております。出られると、最初のダンジョンに戻ります。
2~3日で投票結果が出ると思います。
投票終了時にはご連絡を差し上げますので、その時に指定された場所へ来てください」
「判りました。ありがとうございます」
こうして俺達は、所子のダンジョンに戻ってきた。
帰る前に『シロが投票で1位になりますように!』と祈っておいた。
うまく行けば、これで王になる事が出来るだろう。
さ、帰って今日はもう休養だな!




