スライム
チョロが連れて来たのは、黄土色のスライムだった。
あれっ? 『人食い馬車』って言われてるモンスターを連れて来るんじゃなかったっけ?
「チョロ、そちらの方(?)は誰?」
「やだなぁ旦那、連れて来るって言ったじゃないですか」
「えっ?! スライムが『人食い馬車』なの?!」
「そうですぜ。何だと思ってたんでやすか?」
「え~と、チョロみたいなファントムとかゴーストとか……」
取り憑くって言ってたから、普通はゴースト系を想像するよね?!
まさか最弱と言われてるスライムとは思わないだろ?!
どうなってんの?
「こいつは最初、道路に薄く伸びるんでやすよ。
その上を通過した時に、馬車に取り憑くんでやす。
こいつは自分の色が変えれるんで、そのままこっそりと馬車の内部に潜入しやす。
そして体から睡眠効果のある匂いを出すんでやす。
で、眠った所を溶かして食べるんでやす」
「は~、そういう仕組みなのか。でもそれじゃあ馬車の防御が出来ないじゃないか?」
「こいつはオレと同じで、超音波を持ってるんでやす。
これで近づく敵は判ります。後は馬車の周囲に催眠効果のある匂いを出せば、入ってこれませんぜ。
後、体の硬さを有る程度変えられるので、防御壁も作れやす」
何このスライム! 万能なの?!
超音波で索敵・色を変えて擬態・硬くなって防御・催眠効果の匂い、って有能じゃないか!
「こいつはレベル35なんで、結構頼りになりますぜ?」
俺よりレベルが高い!
ってそりゃそうか。さっきまでココに居たモンスターってレベル30前後だもんな。
それ以下なら駆逐されてるよね。
こんなのが知らない間に馬車に取り憑いてるなんて、ゾッとするわ……。
「そ・そうなんだ……。で、従魔になってくれるって?」
「えぇ、話をしたら、なるって言いやした」
「そんな軽い感じでいいの?」
「こいつは変わったヤツでしてね、この景色には飽きたらしいんでやすよ。
違う所に行けるのなら従魔にでもなるって」
なるほど、変わり者か。
確かにファントムと知り合いになるくらいだもんな。
敵に回すと恐ろしいけど、従魔になってくれるんなら心強いぜ。
「そうか。じゃあよろしく頼むよ!」
「判りやした。じゃあ契約させやしょう」
こうして、『人食い馬車』と言われているスライムが従魔になった。
さあ! 名づけの時間だ!!
「スラ・イム・ライ・スム、のどれかかな?」
「違います! トーメー、でしょう!」
「どっちも却下っス!!」
「じゃあ何なら良いのさ?」
「えっと……キジマさんが」
「いえ、私は遠慮します。もうチョロの名づけをしましたし」
「ではカンダさん……は脳筋なので遠慮してもらって……」
「ヒドい!!」
「他人に任せずに、自分の意見を言おうよ! 採用するからさぁ」
「そうですよね。散々却下されましたから、さぞかし良い名前が出る事でしょうし、即採用ですね」
「ムムム……」
コタニさんは唸りながらスライムを撫ぜたりつまんだりしている。
いくら従魔になったからって怖くないのだろうか?
ま、そんな事は良い!
さあ、コタニさんよ! 素晴らしい名前を出すのだ!!
悩みに悩んだコタニさんは、とうとう1つの結論に達したようだ。
心に決めたんだろう。
「この子の名前は……」
「名前は?」
「レイです!!」
レイと来た! どこから出てきた? 無口だからか?!
ナグラさんも驚いたようだ。
「レイですと?! 青色でも無いですし、零号機にも乗ってないですよ?! 馬車を零号機って言うつもりですか?!」
「えっ? 触った感じ、ひんやりしたので。冷たいからレイって……」
結局、コタニさんも人の事言えないじゃないか。
感触で決めたのかよ!
まあ、採用するけどね。




