チップの村のギルドマスター
まず最初に聞いておきたいのは、さっきのモヒカン軍団の処遇だ。
「さっきの人達は?」
「いやはや、お恥ずかしい。あのようなバカがギルドに所属しているとは!
勿論資格剥奪ですよ。その上で、警察に脅迫と業務妨害で突き出しますので心配なさらず!
今、ここのギルドマスターが来ますので、少々お待ち下さいね!」
そこまで厳しくするのか……。
まぁ誰も依頼を出さなくなったら、潰れるだけだもんな。
つまり、暗に「ちゃんと厳罰処分するんで、言いふらさないでくださいね!」と言いたいのだろう。
しかもギルドマスターまで登場ですか。不祥事があったら責任者交代の可能性もあるから当然か。
って別室に行くんじゃなくて、来るんですか?!
自分でやっといてアレだけどさ、そこまでの問題かなぁ?
「お待たせしました。私がここのギルドマスターのヘイケです。この度はご迷惑をおかけしました……」
ギルドマスターっていうから厳ついオッサンが出てくると思ってたけど、全然違った。
なんていうか、仕事に疲れてる50歳くらいの中年男性って感じ。
風貌から「苦労してるんだろうな~」と判るくらい、やつれている……。
それにしてもヘイケなんてね。平家の末裔なんだろうか?
さて、ギルドマスターまで出てきたので困るのだが、そもそも依頼なんかする予定は無いんだ。
「気分を害したから依頼出すのは止めます」って言って帰るつもりだったのだよ。
そうすればギルドに来ただけで絡まれるなんて事が無くなる、って考えだったんだが。
これ、ギルドマスターに言うと、心労で倒れそうな気がするんだ……。
何か適当な依頼を考えなきゃいけないなぁ。
「それで、今回はどのような依頼でしょうか?」
「それなんですが、この村は燻製製品が流行ってますよね?」
「はい。ダンジョンから良いチップと肉が手に入るので。それが何か?」
「この村には着たばかりですので、どのような物があるのか知りません。
そこで、全種類を2つづつ買ってきてもらいたいのです!」
「なんと! しかしいくら燻製した物とはいえ、長持ちしませんよ?」
「大丈夫です。異次元のカバンを持っているので。移動は馬車ですし」
今思いついた内容だけど、まあまあ良い依頼じゃないか?
この村にどんな物があるか判らないからね。村に詳しい人に買ってきてもらうのがベストだ。
「判りました。詳細はどうしましょうか?」
「そうですねぇ、どれくらいお金が必要でしょうか?」
「私もそこまで把握していませんが、燻製を扱ってる店は30店舗くらいはあると思います」
「では1つ5000円として30万円用意しましょう。もし足りない場合は立て替えておいてもらいましょうか。
商品には、買った店の名前と金額を書いた紙を張ってもらいたいですね」
「了解しました。他には何かありますか?」
「ああそうだ。危険は無いので、若いランクが青色の者にやらせてあげてください」
「良いのですか?」
「ええ、自分も少し前までは青色だったので。なんなら子供でも良いですよ?」
「さすがに子供は登録してませんよ。判りました。青色に優先して出します」
「お願いします。依頼料はいくらくらいが妥当ですかね?」
「2人で1日あれば回れるでしょう。1人1万円で2万円で良いと思います」
「2人限定ですか?」
「いえ、チームで受けても良いですが、貰える額は2万円という事です。
1人でやれば全部を、4人でやれば1人5000円ですね」
これで依頼は完成。内容は、
依頼料:2万円
内容:燻製を全種類2つづつ買ってくる。
補足:商品には、買った店の名前と金額を書いた紙を張っておく事
購入金は用意してあるが、足りない場合は立て替える事
必要ランク:不問(青色推奨)
こんな感じか。
「受け取りは何処にしましょうか?」
「ここギルドで良いですよ。取りに来ますので。で、合計いくら出せば良いですか?」
「では、32万円お願いします」
「あれ? ギルドの手数料は?」
「いえいえ! あんな不手際があったのに手数料なんか貰えませんよ!! 必要経費だけで結構です!!」
「そ・そうですか? 判りました」
32万円をギルドマスターに払う。
依頼表までギルドマスターが書いてくれた。誰かにやらせれば良いのに。
「では早速、今から張り出します。
早ければ明日にでも完了すると思います。その場合はどうしましょうか?」
「ダンジョンに行ってますので、夕方帰ってきたらギルドに寄るようにしますよ」
「判りました。よろしくお願いします」
依頼を出したのはコッチなのに、よろしくお願いするって言われた……。
何か変な感じだ。
おっと、本来の目的を果たさないと!
「あっ、忘れてました! ここのダンジョンの情報を貰えないですか?」
「判りました。少々お待ち下さい」
そう言ってギルドマスターは一旦奥に引っ込んだが、すぐに戻ってきた。
手には何か本のような物を持っている。
「お待たせしました。こちらはここのギルドで売っている、ダンジョンの事が書いてある小冊子です。
無料で差し上げますので、これをお持ち下さい」
「いや、買いますよ?」
「いえいえ! あんな不手際があったのにお金なんか貰えません!!」
こうもサービスされると、俺が悪いみたいな気がしてくる。
横で静観してた2人も、段々と冷たい目を俺に向けてきてる気がするし!
いや、悪いのはモヒカン軍団だよ?!
ここのギルドマスターには親切にしてあげよう。
そう考えつつ、タダで貰った小冊子を手にギルドを後にした。




