晒し者
貴族の1人が手を挙げて、発言の許可を求めた。
ヌマタ卿が許したので、その貴族は質問を口にする。
「囮作戦とはどのような内容でしょうか?
見た所、福田殿は負傷している様子。内容によっては困難なのでは?」
「良い疑問だ。まず、皆も知っている様に、福田殿には優秀な従魔が付いている」
皆が一斉に頷いている。トムさんを思い出してるのだろう。
うん、あれは恐怖だ。細マッチョの人には別の意味で恐怖だが。
「さらに虎のファントムも、従魔として従えているのも知っているだろう。
あれだけの従魔を従えている福田殿だ、他にも沢山の従魔を従えているだろう」
うん、事実無根だ! 多分ココに居る貴族を納得させる為に言ってるのだろうけど。
止めてください。尊敬の眼差しが痛いです。
「それならば、狙われていたハズキ様をお守りできるのは判るな。
しかも、優秀な冒険者も仲間にしている。そこに居るカンダ殿もその1人だ」
おっと、矛先はカンダさんにまで回ってきたぜ!
カンダさんは狼狽しているが、俺からすると視線が分散するのでありがたい。
「という事で、全てをお任せするのは心苦しいが、福田殿にハズキ様を連れてノートルダムに行ってもらう!」
またまたざわめきが発生する。
王族を囮にする作戦だもんな。そりゃ困惑するさ。
先ほど質問した貴族が、またもや声を上げる。
「お待ち下さい! 確かに福田殿は優秀でしょうが、危険ではありませんか?!」
「多少の危険は承知の上だ。これは王も了承している。それだけ福田殿を信用されているのだ!」
「しかし!!」
「では、何か代案を言ってもらおう! それともそなたが福田殿の代わりをするか?」
「……」
そう言われると誰も声を出さなくなった。
代案は無い、でも余所者は信用出来ない、でも王様が信用している、でも、でも、でも、って事だろう。
出世欲のある者は、自分がハズキ君を連れて囮になると言いたいだろう。
でも100%守れるかと言われたら困る。俺より強い従魔を持っているかという話になるからだ。
守る為に護衛を山の様に連れて行けば、囮にならないし。
俺の場合、少数で動く。貴族じゃないが王の信用がある。襲われても対処出来る。だからこそ囮としては最高なのだ。
この条件を満たした人間を用意出来るのか? と暗に問うたヌマタ卿に誰も反論出来ない。
「……代案は無いようだな。では決定だ! 福田殿よろしく頼む!」
「……お受けします」
もうこの場では、前に習った言葉しか言う事が出来なかった。
さすがに「イヤです」とは言えない雰囲気だもん! 実際は面倒だからしたくないんだけどさ!!
俺とカンダさんは、そのまま謁見の間を後にした。
そのまま帰れるかと思いきや、次は王の私室行きだそうだ。
どうやら貴族の居ない所で詳細を打ち合わせるらしい。
まあ言えない事もあるからね。
夜になる度に『コネクト』で帰るとか。誘拐とか不可能だよね。
私室で待っていると、2トップと王様が入ってきた。
入ったと同時に、全員が俺を指差して笑い出しやがった!
「筋肉痛で車椅子!! ププッ!! 情けない姿だな!!」
「うるさい!! 車椅子を用意したのは騎士の人なんだよ!!」
「まあまあ、王よ。ププッ、騎乗は初めてだと、プッ、必ず筋肉痛になりますよ」
「笑いながらのフォローはフォローになってない!!」
「自分で動かしてないが、もしかして腕も筋肉痛なのか?」
「……そうだよ。悪いか?」
「「「プーーーー」」」
3人揃って噴出しやがった!
ムカつくわ~!! 囮とかやめようかな。
ふと横を見ると、カンダさんまで笑いそうになってるではないか!!
くっ! ここには味方は居ないのか?!
「これ以上バカにするなら、協力しないぞ?」
「ククク、すまんすまん。あまりに滑稽でな」
「そこに居るヌマタ卿のせいなんだよ!!」
「そうですよ、王よ。私が悪いのです。まさか福田殿が馬に乗れないなんて想像すらしてなかったので」
「おいっ! ヌマタ卿! フォローしながらディスるんじゃない!!」
今すぐ『コネクト』使って帰ってやる!!
あっ、1人じゃ動けないんだった……。
この後5分間、俺は笑い者にされ続けた。




