ローアとヒート
参加させてもらえなかった翌日、やはりというか腿と腕が筋肉痛になったよ。
乗馬って、腕も筋肉痛になるんだな。新発見だよ。
だからどうしたって情報だけども。
幸いな事に、今日からは待機なので助かる。早く行きたいんだけどしょうがない。
だが、そうなると、じっとしていられないのがハズキ君だ。
しきりに「どっか行こうよー!」と俺の部屋に来る。
俺は、階段さえ降りたくないのに。
とりあえずカンダさんを呼んできてもらい、肩を借りてリビングまでは移動出来た。
が、今日は絶対にどこにも行かないぞ!
それで引き下がるハズキ君では無かった……。
ヒタキさんにマッサージをさせると言い出したのだ!
確かに楽になるかもしれないが、それは昨日の内にして欲しかった。
今日は少しも触って欲しくない!
そう伝えると、キジマさんにしてもらう? と策を練ってきた。
ふむ、女性なら良いかも? いやいや、遠慮する!
危ない、罠にかかる所だったぜ!
しょうがないので、寝た状態で魔法を教える事にした。
教師としての威厳ゼロですね。
さて、教える魔法だが、生活魔法に限定されている。
しかもその中から説明出来る物じゃないとダメだ。質問されたら困るから。
今、覚えている生活魔法は8個。2個は教えたので残りは6個。
ライト・ファイア・ローア・ヒート・タイム・アース。
ライトは原理が判らないからOUT。タイムも同じくダメ。
穴を掘るアースなんて、どうなってるのかさっぱり判らない。土の密度を変えてるのか? 分子レベルまで分解?
悩んだ結果、ローアとヒートを教える事にした。
温度を上げ下げする魔法だ。これなら昨日のナグラさんがした説明で教える事が出来るだろう。
「じゃあ、今日は温度を上げ下げする魔法を教えま~す!」
「「「はーい」」」
やはり全員参加するようだ。
そうなると、ナグラさんはまた大人担当だな。
しょうがないよね、俺動けないし。
「昨日教わった水のブンシ君は覚えてる?」
「覚えてるよー!」
「寒いと動かなくなるって習ったよね?」
「うん!」
「じゃあ、逆に動かなくなるとどうなるかな?」
「えっ? 寒くなる?」
「おおっ! その通り! 正解で~す!
それが『ローア』って魔法だよ。魔法でブンシ君に「じっとして!」ってお願いするんだ」
「はいは~い! 質問っス!!」
「はい、コタニさん。なんでしょうか?」
「この魔法、触れている物の温度を下げるハズっスよね? じゃあテーブルとかはどうして温度が下がるんスか?」
「……テーブルの中にも水分子があるんだよ。きっと。多分。おそらく」
「曖昧っスね?!」
「少なくとも、動物・植物には少しでも水分があるのは判るよね?
その水分の中に水分子があるんだよ。テーブルも元々木でしょ? 有ると思うよ、水分子。きっと。多分。おそらく」
「納得のような、納得出来ないような……っス」
そんな意地でも『っス』って言わなくても良いだろうに。
とにかくそれで納得してくれ。そこは実験してないから判らないんだよ。
「あっ! 俺、判ったー!!」
「どうした? ハズキ君。何が判ったの?」
「ブンシ君に「動いてー!」ってお願いすれば温度が上がるんでしょ!!」
「……正解だ! 天才だな!! 閃きの宝石箱やー!!」
「エヘヘヘー」
思わず何処かの食レポみたいに言ってしまった。
天才のハズキ君の頭を撫ぜてあげる。
なんて優秀なんだ! もう王様チェンジできるんじゃないか?
しかし問題が一つ。教える事が無くなってしまった……。
残るはファイアだけなんだが、コレを教えてしまうと明日以降困る事になりかねない。
どうしたもんか……。よし!
俺は正解したハズキ君に、イチゴを出してあげた。ご褒美だ。
好物が貰えて、凄く喜んでいる!
食べ終えた後に、魔法の本を読んでもらおう。
そして、色々な物の温度を上げ下げして実験してみればいいよ。
しばらくすると、MP切れでお昼寝タイム突入するに違いない! 完璧な作戦だ!
これで今日は俺もゆっくり出来る。
そう思ってたら、昼過ぎに城から使いが来たよ……。
もう尋問終わったの? 優秀すぎるよ、ヌマタ卿!




