逮捕劇・後編
何とか落馬せずに現場近くにまで来る事が出来た。
運のお陰か判らないけど、俺頑張ったよ! 誰か褒めて!!
おっと、そんな事を考えてる場合じゃなかった!
トムさんの暴れっぷりがハンパない。
正に暴れ馬だ! これを言うと怒られそうなので言わないけどさ。
多分護衛の人なんだろうけど、トムさんに剣で攻撃しに行ったのに、ヒラリとかわされて放り投げられてる……。
あれ、飛距離にして10mくらいじゃないか? 着地が悪ければ即死だよ。
次に運搬してる人を捕まえた。これ以上行かせない為だろう。
その人も投げられた。その距離12mくらい。記録更新だ。
その後、馬をギロリと睨んだ。それだけで、馬は大人しくなり、その場に座り込んだ。さすが馬の頂点。違うか?
冒険者に扮して隠れて出国しようとしてた者まで、事態を把握したのかトムさんに向かっていった。
当然の如く、投げられてるけど。よく見ると、剣を奪い取って前足で踏んで折ってる。ヒドい。
中には本物の冒険者も居ると思うんだ。その人の剣まで壊す事は無いんじゃないかな? 区別はつかないけどさ。
こうやって眺めてると、トムさんの異常な強さがよく判る。
あれ、俺の従魔だぜ? 普通に考えたら言う事を聞く訳無いよね? 俺レベル25だもん。
護衛が残り1人となり、荷台には一番偉そうなのが1人残るのみ。
ここにきてようやく国境警備から人がやってきた。
遅いので何やってたんだと思ったら、国境の門を閉めてたようだ。
今は誰も通過出来なくなっている。
国境警備の人まで被害が出てはいけないので、俺とヌマタ卿はトムさんを押さえに行く。
暴れている所に到着すると、ヌマタ卿が叫んだ。
「国境警備の者よ! そこで止まれ! 私は国軍のヌマタである!!」
その声を聞いて、国境警備の人達は武器を下げて立ち止まった。
その中で団長のような人がヌマタ卿に話しかけてきた。
「ヌマタ卿、そこでモンスターが暴れております!」
「これは、こちらに居る福田様の従魔である!」
「は・はぁ。で、何故暴れているのを止めないのですか?」
「福田様の持ち物が何者かによって盗まれたのだ。それを従魔に追わせたのだ」
「で・では! そやつらが?!」
「そうだ、こいつらが盗品を持っている可能性が大きい! 国境警備の者に命ずる! 1人も逃がすな!」
「「「はっ!!」」」
「福田様、ト、いや、従魔を止めてもらえませんか?」
「えっ? あっ! は・はい! トムさん、ストーーップ!!」
俺が止めた時には既に護衛は投げられており(記録更新の13m)、偉そうなヤツが襟首を持たれて持ち上げられていた。
もう少し遅かったら、その握り締めてる左こぶしで殴られてただろうな。首が吹っ飛ぶんじゃないか?
それにしても、俺の事を「福田様」って言うのは、止めてもらえないかな? 凄く居心地が悪いです。
ヌマタ卿は馬を降り、俺を降ろしてくれた……。すみません、もうプルプルなんです。
ヌマタ卿の肩を借りて、何とかトムさんの所に行く事が出来た。
今度はトムさんにすがらせてもらう。その格好を見て、またニヤニヤと笑っている。チクショウ。
トムさんに放されたヤツは、その笑う顔を見てより一層恐怖が増したようだが。
どうやらヌマタ卿が尋問するようだ。
「おい、キサマ。窃盗容疑で逮捕する!」
「わわわわわわ・わた・私はノートルダムの外交官だ!
ここ・こん・こんな事をして、ゆゆゆゆゆ・許されると思ってるのか?!」
「ふん、キサマも知っていよう。現行犯の場合には外交官といえども逮捕されると」
「何も盗んでいない!!」
「ほう、ではその後ろの荷台に詰まれている荷物は何かな?」
「これは全て自分の私物だ!」
「では見せて頂いても構わないね?」
「いや、拒否する!!」
拒否出来るのも外交官の特権にあるらしい。機密文書とか読まれても困るからという事なんだろう。
なので拒否されると、普通ならココで手詰まりになるのだ。
だが、今回は俺が居る。
「ふん、そう言うと思っていた。福田様、お願いします」
「はい、了解しました」
「なななな・何だ?! また暴れさせるのか?!」
「そんな事をする必要は無い。盗まれた品物には福田様の従魔が取り付いているのだ。
福田様は近くに居ればそれを呼び出す事が出来る。たとえ布がかかっていてもね」
そう言ってヌマタ卿はニヤリと笑い、その後俺を見る。
はいはい、ガーを呼べって事ね。
俺がガーを呼び出すと、わざわざ布をビリビリに破って登場しやがった!
そして荷台の上で一吠え!! 外交官は腰を抜かしている!!
誰だ、こんな演出を仕込んだのは!!




