逮捕劇・前編
翌朝、朝食を食べてから馬車に戻る。
するとすぐにヌマタ卿がやって来た。
最終打ち合わせをしたいらしい。
魔法の勉強をしていて忘れてたけど、今日は逮捕の日なんだよな。
もう一度計画をヌマタ卿と話し合う。
まず、盗賊の簒奪品の中に俺の腕時計を混ぜる。
国境の検査施設に賊が入る前に、従魔であるトムさんに襲わせる。
警備している騎士が来るまでに腕時計をトムさんに発見してもらう。
近くに居れば従魔同士は念話が出来るので、発見は容易だろう。
そこに俺とヌマタ卿が駆けつける。
警備の騎士とヌマタ卿と俺が揃ってる所で盗まれた(って事にした)腕時計を発見する。
腕時計が俺の物と証明する為に、腕時計からガーを出す。
盗品発見の現行犯なので、外交特権関係無しで逮捕する。
うん、間違いないようだ。
騎士隊と俺達は、早速大森林の中に入って隠れる。
騎士隊の中の選ばれた人達が、盗賊の格好に着替えている。
しかし、この計画には大きな穴があったのだ!
それは俺が馬に乗れない事だ!!
駆けつけるって計画なのに、走って行っても間に合わない。
どうするの? って聞くと、ヌマタ卿は軽く「馬で行きますよ」と言いやがった!
「乗れないんですけど……」と言うと、今から特訓になったのだよ。
15時に取引らしいから、5時間くらいで走らせれるようにならなくてはいけない。
お陰で非常に厳しい特訓になっております……。
こんな事なら『技術』で『騎乗』を貰っておけば良かった!!
現在14時半です。
そろそろ取引が始まるような時間です。
俺はそれ所ではありませんが。
内腿がプルプルしてます。痙攣でしょうか?
何とか馬を走らせる事は出来るようにはなりました。止まれませんが。
はっきり言って、失敗です、この計画。
もう馬に乗りたくありません。誰か助けてください。
現代人は車なのですよ。馬に乗るなんて騎手の仕事ですよ。
凄い職業ですよね。尊敬しますよ。だから助けてください。
チラリと横を見ると、トムさんが盛大に笑っていた……。
そりゃ貴方は言葉通り人馬一体なんだから良いですよ。こっちは個別なんですよ?
貴方が巨大なカニに乗ってサーフィンするようなものですよ?
いや、この人なら軽く出来そうな気がする。ムカつくわ~。
時間が時間なので、もう特訓は終了だ。
今からは待機で、合図があったらトムさんが先行していく。
その後少ししてから俺とヌマタ卿が追いかける。追いかけられたらね……。
腕時計は既に渡してあるので、魔法の『タイム』で時間を見ている。
この『タイム』の魔法だが、普通に使うと目の前に透明な板が出現してそこに表示される。
だがステータス画面に表示する事も出来るのだ。スマホの上部のように。
なかなか便利なので、そのままにしてる。
これで現代人のように腕時計が必要無くなった。
しなくなったらガーから苦情が出るだろうから、いまだに腕時計は着けてるが。
15時30分になったが、いまだに合図が来ない。
バレたか? 見つかったか? と思ったけど、ヌマタ卿が言うには取引は終了しているらしい。
今はある程度離れるのを待っているのだとか。
向こうは馬車は馬車でも荷馬車だったようだ。1頭で引いてるので、移動もゆっくり。
そうなると国境近くで捕まえる予定だもんな。こちらのスタートも遅くなるか。
特にトムさんは早いので、すぐに追いつかないように間を空けているらしい。
16時が近くなった頃に、ようやく合図が出た!
トムさんが一気にトップスピードになり追いかけていく!
俺? 『フリーズ』で作った氷で内腿を冷やしてたよ。
今、慌てて馬に乗った所。
ヌマタ卿は既に用意してて、俺が乗ったのを見てからスタートさせた。
ちょっと待ってよ~! 落馬して死んじゃうよ?
恐怖のあまり失念してたが、ここにきてようやく思い出したので発動しといた。
『馬から落ちませんように。無事に到着しますように』って運を使っておいたよ。




