アホな願い
王様が貼った『門のシール』を認証した後、少し待っているとネモトさんがやってきた。
ハズキ君は少し嫌そうな顔をしている。
ネモトさんが苦手なのだろうか?
「お待たせしました、福田さん。おや? ハズキ様。何故ここに?」
「うるさいなぁ。じぃに呼ばれたの!」
「そんな喋り方は許していませんよ」
「えっと、ネモトさんは、ハズキ君とどんな関係で?」
「手の空いている時に家庭教師をしているのですよ」
「あぁなるほど」
だから嫌がるのか。
厳しそうだもんな、ネモトさん。
「ちなみに武芸はヌマタ卿が教えていますよ」
「うわぁ、そりゃ凄い」
なんというラインナップだ!
ちゃんと学べば、素晴らしい王様になりそうだ。
でも、ハズキ君はそれを聞いてさらに嫌そうな顔になった。
ネモトさんよりも厳しそうだもんな。毒舌だし。
でもこれで良く判ったよ。
城の中という限られた空間の中で、2トップに教えられるってのは息が詰まる。
違う教師も居るだろうけど、変わらない毎日だろう。
勉強が好きでも、イヤになるだろうなぁ。勉強嫌いな俺が言うのもアレだけど、これじゃあ身に付かないわ。
それならと、王様が手を打ったという事だ。
興味がある事から勉強するのは良い事だからね。興味があると覚えるのも早いし。
今は魔法に興味があるんだろう。だから魔道の国に連れて行けって事か。
しょうがない、将来の王様の為に一肌脱ぎますか。
「ネモトさん、ハズキ君は俺と一緒に魔道の国に行く事になったんですよ」
「「えっ?!」」
あれっ? なんでハズキ君まで一緒に驚くの?
もしかして王様、何も言ってないの?!
「王様?」
「うむ。伝えておらん!」
「威張るな! ちょっと、そっちでちゃんと話し合ってきなさい!
俺はネモトさんと話してるから!」
「うむ。そうだな。ハズキよ、ちょっとこっちへ来なさい」
ちゃんと説明しとけよ。
いきなり言われても困るだろ? 本人も周囲の人も。
まぁ、あっちは放っておこう。今は自分の事が大事だ。
「ネモトさん。どうなりました?」
「えっ? あっ! はい! え~と、こちらが武具のリストになります。
それから、こちらが福田さんの家の受け渡し状と住所、それと税金免除の書類ですね。署名をお願いします。
最後に魔法の本と無の魔法石ですが、これらは家の方に持って行かせますので」
ネモトさんに言われるままにサインをした。
これで王都に家を持つ事が出来た! 後で皆で見に行こう!
税金免除はありがたいね! この書状があれば、町に入るのもタダだ!!
通行手形も持ってるし、この国の中ならどこでも行けるようになったぜ!
「はい、以上ですね。これで全ての手続きは終わりです」
「ふう、そうですか。良かった~!」
「はい。後は明日にでも謁見して終わりですね」
……そういえばそんな儀式があったような気がする。
もう貰えたんだからいいじゃないかよ~。
「そういう形式的な事は止めませんか?」
「止めませんね。王の威厳を示すにも必要な事ですので。
後、アホな……いや、配慮の出来ない貴族を黙らせる為にも必要なのですよ」
今、アホって言った!!
この国にも居るんだ! アホな貴族って!
ある意味見てみたい気がする! 話せば不快だろうけどさ、見る分には問題無いでしょ!
そんな俺のアホな希望は、翌日の謁見で叶うのであった……。
こんな希望まで叶わなくても良いよ! これこそ、運の無駄遣いだ!!




