二つの願い
「さて、福田様。これで勝負は終わりなのですか?」
「俺が6勝したので終わりですけど……どうして俺に聞くんですか?」
「決まってるじゃないですか。この人に聞くと、ウソや方便で延長しようとするからですよ。
そうですか、終わりましたか。で、こいつは負けたら何をしてくれると言いましたか?」
とうとう王様をこいつ呼ばわりし出したよ……。
「えっと、『何でも二つだけ願いを叶えてやる』と言われましたけど……」
「そうですか、王の隠居と財産没収ですね。判りました」
「いやいやいやいや、そんな事言ってませんって!」
勝手に決めないで欲しい。
あっ、今、舌打ちした!!
どれだけ王様を追い詰める気だよ……。
「では、その内の一つを使って『叶える願いの数を無制限にしろ』と願って下さい」
「それは認めん!!」
「敗者は黙ってなさい。今、私は次期国王になるであろうお方と喋っているのですよ?」
「「何故、次期国王?!」」
俺と王様の意見が一致した。
なのに、平然と答える軍師様。
「二つ願いが叶うなら、まず王になるのが最善だからですよ。
王になってしまえば、こんな王になど頼らなくても願いを叶える事が容易になるからです。
そうすれば、国民も喜び、国は安定し、私も楽が出来る。良い事ばかりではないですか」
「いやいや、そんな事は願いませんって!」
「そうだ! それも認めん!!」
「『何でも』と言ったのでしょう?
どうせ自分が勝つからと、細かく決めなかったのでしょう?
後から変更出来るのは、勝者のみに許される事ですよ?
負け犬が後から何を言ってもキャンキャンうるさいだけです。黙りなさい」
ヒドイな! 何か恨みでもあるのだろうか?
でも、ちゃんと言っておかないと、なしくずしに王様にされてしまいそうだ。
阻止しないと!!
「待ってください! 俺は王になる気は無いですよ?!
早速一つ目の願いを言います!
『王様はヌマタ卿に必ず何でも相談して、助言を真摯に受け止め考慮する事』。これです!」
王様はすごくイヤそうな顔をしたが、反論はしてこなかった。
まぁ、隠居しろって言われるよりマシだからね。
「福田様、それでは私の負担が大きくないですか?」
「それも考えましたが、後から聞かされるよりはマシじゃないですか?」
「……そうですね。どうせ同じだけ負担があるでしょうし、先に聞いた方が手が打ちやすいですね。
どうですか、王よ。これが考えられた回答ですよ? 貴方もこれくらい考えてください」
「お前に相談しろ、それから決めろ、っていうのが考えられた回答か?!」
「そうですよ? バカ、いや、知恵の回らない負け犬に説明してあげましょう。
本当は、『相談して進言に従え』と言いたかったのですよ。
それをあえて『相談し助言を貰え』としたのは、私による傀儡政権になる事を阻止してあるのです。
進言に従う事になれば、私が戦争と言えば戦争をするしか無いんですから。
あくまで相談役、しかしその助言は十分考慮する事、イエスマンになるな、と考えて言われたのです」
見事に俺の考えを当てられた!
さすが軍師様。この人に相談するなら、この国も悪い方向には進まないだろう。
「理解出来ましたか? 出来たのなら、ちゃんと福田様にその旨を伝えなさい」
「ぐぬぬぬ……判った、その願い叶えよう……」
「これでよろしいでしょうか、福田様?」
「は・はい。問題ありません」
何とか一つ目の願いは叶ったようだ。
しかし、二つ叶うはずの願いが結局一つになった気がする。
はっ! もしやこれも軍師の仕業か?!
「さて、私はこれで職務に戻らせてもらいます。
福田様、この度の一件はご苦労様でした。そして我が国の為のご尽力、ありがとうございました」
「そ・そんなつもりでしたつもりは無いのですが……」
「どんな考えで行ったとしても、我が国は助かったのです。それで良いではないですか」
「そ・そんなものですか?」
「はい。では、失礼します。……そうそう、残り一つの願いですが、無茶な要求を与えてやってくださいね」
そう言い残してヌマタ卿は笑いながら去って行った。王への毒舌を残して。




