最終局面
1時間後、勇者は泣きそうな顔で帰ってきた。
きっと誰に聞いてもバカにされ、真実を教えられたのだろう。
さすがに同情するわ。
「どうだった?」
「……。はい、皆さんが言ってたのが本当でした……。」
「だろ? で、どうするの?」
「私、どうしたら良いんでしょうか……」
「まぁ、単純に考えれば、そのデタラメを教えてた所には行かない方が良いね」
「何故ですか?」
「また騙されるからだよ」
「さすがに、もう騙されませんよ!」
「そうか? 『他の国は自分の国の失態を隠す為に、国民にウソの発表をしてるんだ!』って言われたらどうだ?」
「……」
「『他国だけど、人の為に続けてくれないか? それが人類の為なんだ!』とか言われても大丈夫か?」
「……」
「黙ってるって事は、そいつが言いそうと思ったからだろ? そして乗せられそうと思ったからだろ?
だから接触しない方が良いんだよ。会うにしても、ちゃんとこの世界の常識を知ってからにした方が良い」
「じゃあ、どうすれば良いんですか?!」
はい、第3段です。
また騙されるから帰っちゃダメですよ~と認識させる。
さ、ここらでトドメとしましょうか。
「そもそもだ、どうやってダンジョンからココに来たんだ?」
「えっと、モンスターを追いかけてたら、躓いて転んだんです。そしたらココに居ました……」
「何で? どういう仕組み?」
「私に聞かれても判りませんよ!!」
「……同郷の所に来るなんて出来すぎな話だな」
「そうですね。私もそう思います」
「これは何かの力が働いてるのかも知れないな。例えばこの世界の神様とかさ」
「神様って……。さすがにそれは……」
「いや、そう言い切れるのか? 日本からこの世界に来るような不思議な事が起きてるんだぞ?」
「……そう言われれば……たしかにラノベとかでは神様が出てくるし……」
最終はラノベでありそうなシチュエーションに持ち込む事。
転生を経験したんだから、神様だってありうるかも? と考えさせる。
神様がした事なら、何か意味があるのでは? とまで考えてくれれば大成功!
とうとう勇者は考え込み始め、ブツブツと何かを言い出した。
どうやら成功のようだね。
後はイイクラさんが来るまで軟禁するだけだ。
いや、軟禁と判らないようにするよ?
「ま、大変だったろうし、これからの事もある。
とりあえず、しばらくの間ココに泊めてあげるよ。幸い部屋も余ってるし。
後、世界の常識を覚えられるように支援もしてあげる。俺は福田哲司。よろしくな」
「ブツブツ……えっ? あっ! そ・そうですね!
すみませんが、よろしくお願いします。私、名倉良子です。
世間知らずで申し訳ないです……」
こうして、勇者捕獲はひとまず大成功と言える結果となった。
時刻は既に夕方。
ナグラさんには2階の真ん中にある部屋を使ってもらう事にした。
窓の無い部屋なので物置にするつもりだったんだけど、今回は好都合。
逃げるなら俺の部屋の前を通るし、階段を下りればカンダさんの部屋がある。
部屋割りも終わったので、リビングで全員で食事する事にした。
今日は料理をするのも面倒なので、持ってた牛丼と豚丼を出した。
その後ナグラさんは、コタニさんとキジマさんに常識を教えてもらうそうだ。
夕食後1時間が勉強タイムになった。
俺は自分の部屋に戻って、イイクラさんに報告する事に。
タブレットのTを押してコールすると、すぐにイイクラさんが出た。
「どうもです」
「お疲れ様です。どうでしたか?」
「はい。なんとかうまく確保しました。今、自分の家に居ます」
「おおっ! 早速成功ですか!」
「はい。今、仲間がこの世界の常識を教えていますよ」
「了解です。ではこちらも動きますので、2日間は勇者を捕獲していて下さい。
2日後に私がそちらに伺いますので」
「判りました。一応王が騙していた事は伝えたので、逃げないとは思いますが注意しておきます」
「ではお願いします」
こうしてテレビ電話は終了。
イイクラさんが動くって事は、王の逮捕に動くって事なんだろうな。
ん? 逮捕なんだろうか? 三途の川の人達でしょ? まさか生きたまま三途の川に連行……?
ま・まあ、2日の間に何かするのだろう。頑張れ!




