弓
ゴタゴタも収束し、いよいよ勝負となった。
えっ? ゴタゴタはお前のせいだって?
いやいや、自慢する男が悪いんですよ?
……ゴホン、さて、弓の勝負の説明をしようかな。
ルールは簡単。サガワさんが説明した通り、弓で的に当てるだけ。
矢と的は10個で、どれだけ当てたかで決める。
同数の場合は中心に近かったのが多い方が勝ちとなる。
問題は的の位置だ。現状ではどこにも的が見えないのだ。
多分だが、何らかの仕組みで開始すると何処からか的が出てくるのだろう。
同じ場所に出るとは限らないので、後攻有利とはならないと思う。
まあ、出方が判るので、後攻有利なのは間違いないんじゃないかな?
ここで、ソノダさんがルールを発表する。
「さて、勝敗の決め方は聞いていると思う。ここでは勝負の方法を説明する。
弓矢を赤と黒の2種類用意した。二人で話し合ってどちらを使うか決めて欲しい」
「僕はどちらでもいいですよ」
「じゃあ、俺は赤で。誰かの血が付いても判りませんからね、ふふふ……」
「誰かって誰ですか?! 怖いですよ!! じゃ・じゃあ、僕は、黒で……」
偶然、たまたま、弓矢が逸れて人に当たる事ってあるよね?
「次に、そこに用意している箱に入ってもらう」
箱は木で出来ていて、30cm×30cmの大きさ。高さは膝までの物だ。
これに入ると、足を開いて弓を撃つ事が出来ない。
限られた状態での弓撃ちなんてした事無い!
と言っても、弓なんて前世で遊園地にあったアーチェリーをした事があるだけ。
俺とケンモチさんが箱に入ると、ソノダさんは次の説明を始めた。
「よし。箱から出たら、その時点で負けとなるからな。
矢と的は10個と聞いているだろう。
だが、1つの的に1回しか撃ってはいけない事はない。外した場合は当たるまで撃っても良い。
その場合は後に出てくる的に射る矢が無くなるが、それも作戦だ。
一つでも多く当てた方が勝ちなのだからな。よく考えるように」
なるほど。どんな形で出てくるか判らない次の的よりも、見えている的を優先する方法もアリか。
最初の1発を様子見で外しても次の1発で当てれば良い。それを繰り返せば、少なくとも的中は5個になる。
つまりこの勝負、5個以上当てた方が勝利に近い事になるな。
「色分けから判ると思うが、二人同時にスタートしてもらい、同じ的を狙ってもらう。
最後の的が出てから2分後に終了だ。終了後に撃った矢は無効となる。
妨害だが、相手の体に何が触れても失格だ。矢で射るのは勿論ダメだし、弓で押す等もダメだ。
とにかく相手にケガをさせれば失格だと覚えておけ。
相手の矢に当てて阻止する事は、もし出来るなら許可しよう」
おっと面白い話が出たぞ?
相手の体に触れるのは禁止。だが、今入っている箱に触れるのは許される、と暗に言いたいのだろう。
例えば箱に向かい魔法を打ち込んでも、ケガさせさせなければOKだと。
汚い行為? いやいや、説明の穴に気づかない方が悪いのだよ。
そもそも魔法が禁止になってない時点で、少し怪しまなければならない。
俺は覚えて無いけど、『ブロック』っていう壁を作る魔法がリストにあった。
もし使えるなら、目の前に作ってやるぞ?
えっ? もしもケンモチさんが使ってきたらって? 大丈夫大丈夫、その場合の対抗策は考えてある。
そんな事を考えてたら、いよいよスタートの時が来た。
「よし、準備はいいな? ではスタートだ!」
ソノダさんが笛を吹く。これがスタートの合図のようだ。
すると、20m先にある木から的が出てきた。手動のようだ。
ケンモチさんは魔法を使う気配が無い。実力勝負か。
ではこちらは自由にやらせてもらおう。
まず、一時的に視力を上げる『ロングサイト』の魔法を使う。これで的ははっきり見えるようになった。
後は簡単。『当たりますように』と祈り、『技術』の『必中』を使いつつ矢を射るだけ。
俺の放った矢は、吸い込まれるように的に当たっていく。
『必中』がCのせいか、真ん中には3回中1回しか当たらないけど。
終了の笛の音が鳴った。
俺は10発中10、ケンモチさんは10発中6。
よし、まずは1勝だ!




