就職?
タルーンさんはゴクリと唾を飲み込んだ。
そしてハンカチを取り出しあせを拭いている。
商人からすれば、それほどの事を俺は言っているのだろう。
2~3分後、ようやくタルーンさんは話し出した。
「そ・それは……福田様が『コネクト』を使える……という事でよろしいでしょうか?」
「はい、その通りです」
「そして、『門のシール』をお持ちという事ですね?」
「はい、そうです。ん? 『門のシール』って流通してないんですか?」
「流通してませんね。国が管理しています。許可した人しか使えないし、貼る場所にも申請が必要です」
「そうなんですか?!」
「はい。密輸・暗殺・戦争、全てにおいて国には脅威ですからね」
「……そう言われるとたしかにそうですよね。話しておいて良かったです……」
「しかし、商人からすれば至上の魔法です」
「使える人は少ないのですか?」
「はい。まず覚える方法がありません。使える者は全員王都の施設の中にいますので、出会う事もありません」
「うわ~、ヤバいですね……」
「はい。本当に信用の出来る人以外にはバレないようにしてください。危険です」
マジかよ?!
前世の小説やラノベとかじゃあ、普通に使ってるイメージがあるんだけどな。
重要な所は結界で守られてるとかでさ。
でも考えてみればそうだよね。城を結界で守っても、テロ攻撃なら関係無い。
戦争なら王族を殺さなくても、降伏させれば良いのだ。
町のアチコチでテロを起こしたり、流通道路を壊したりして疲弊させれば良い。
結界で守れるとしても国全体を覆うのは不可能だろう。
気軽に転移出来る世界は、実はむちゃくちゃ危険な世界だよね。
「それでですね……本当にうちの敷地に貼られますか?」
「えっと……ヤバいですよね?」
「ええ、危険です。しかし、それでも私は許可しようと思っています」
「えっ?! マジですか?!」
「はい。デメリットよりもメリットが遥かに上回ってるのです。商人なら誰でも夢見る事なのですよ」
「で、では、貼らせて貰います」
「運用はどのようにお考えで?」
「まだどこにも貼ってないのですが、ここに1枚、馬車の中に1枚、カジノの町に1枚、オオキの村に1枚、かなと。
それで、こちらに来る場合は事前に『メール』しようと思ってます」
「なるほど。ではこちらからも提案させてください。
まず、私が居る場合は問題ありません。
いない場合ですが、出る前に『門のシール』の所に置手紙をしておきます。それを読んで行動してください。
次にお願いなのですが、それは私にも使わせてもらえますね?」
「それについては問題ありません。どうぞ使ってください」
「使うと言っても福田様がいなければ無理です。なので輸送を依頼する形でよろしいでしょうか?」
「ああ、そうですね。お願いします」
「ありがとうございます。では2~3日に1度、こちらに来てもらえますか?
『門のシール』の所に冒険者ギルドのような依頼ボードを置かせてもらいます。
依頼が有る場合は、早めにそこに日時を書いて貼らせてもらいますので」
「それは良い方法ですね。では2~3日に1度は依頼を見に来ます」
何か、運搬業始めましたって感じになった。
まぁ裏家業だけどね。
「先ほど4枚使われるというお話でしたが、何枚お持ちなのでしょうか?」
「え~と、確か10枚だったと思います」
「なるほど。残りは6枚ですね。どこに使われる予定ですか?」
「いや~、今の所は考えてないですねぇ。
あっ! 思い出した! 1枚は予定があります!」
「それは?」
「木の板とかそういう運べる物に貼ろうかなと。ダンジョンとかで進んだ所に置いておけば便利じゃないですか?」
「なるほど! 危険な所で野宿の必要が無くなる訳ですね!」
「そうやって運用可能なのかは、実験しないと判らないですけどね」
「いえ、素晴らしい発想です! 是非とも実験しましょう!!」
「そうですね。近い内に実験しようと思ってます。ところで、枚数を聞かれたのは何故?」
「あぁ、すみません。興奮してて忘れてました。
1枚ほど譲ってもらえないかと思いまして聞いてみたのです」
「かまいませんけど、どこに貼る予定ですか?」
「王都に支店があるので、そこに設置しようと思っています。どうでしょうか?」
「それならこちらからお願いしたいくらいですよ!」
「そうですか! 良かった!」
素晴らしい! これで王都に行く事が出来るぞ!!
「一つだけお伺いしたい事があります」
「何でしょうか?」
「その『門のシール』は、誰が貼っても良いのでしょうか?」
「……」
こりゃ早速実験するしか無いなぁ……。




