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今日から学校と仕事、始まります。①莞

閻魔大王、本棚を追求する

作者: 孤独

ここは地獄。群雄割拠の動乱が続いている世界。


「ふはははは、どうした!?この程度で終わりか!?最強と謳われた軍が聞いて呆れる!」

「トームル・ベイの軍は戦わない腰抜けだったのか!?」



血を血で洗う世の中。戦争が絶えないこの場所。

”閻魔大王”トームル・ベイ。彼はこの地獄で最強の男と謳われ、たった一人で何十万の軍勢を倒す怪物。戦闘力はもちろん、そのカリスマに心を惹かれたり、恐怖を抱きながら付き添う部下が何千、何万といて、トームル・ベイの軍隊と化していた。そんな彼の部下達は今、奇襲を仕掛けてきた敵の連合軍に対してなんとか踏み止まっている状況。



「くそー!閻魔大王様が不在を良い事に攻めてくるとは!」

「情報が漏れた可能性があります!」

「ユダなんているわけねぇ!!連合軍側に位置情報を得られる奴がいるんだ!」


防戦一方。

1人の質では連合軍などという烏合の衆共に劣らないが、あまりの数の多さ。そして、さらに首を絞められているのは情報不足だった。

軍の弱い部分を的確に突いて来る連合軍は情報によって戦っている証拠だ。

もし、向こう側になんかしらの切り札が飛び出してくれば踏ん張れなくなる。



「早く!!閻魔大王様を呼ぶんだ!このままでは全滅する!!」



急に軍から離れてしまったトームル・ベイ。

まだ彼の元にこの戦場の情報は届いていない。一刻も早く、彼の帰還が鍵を握るこの戦争。そして、部下達はどんな罰を受ける覚悟でもいる。それが死でも構わない。

力不足、情けなく、申し訳ございません。





「おい、どーゆうことだ!!?」


そんな戦況があるとは知らずに、一人の大男は家具の売り場で吼えていた。



「チラシにあった本棚と違うじゃないか!!」

「いえ、まったく同じですって」

「違うだろ!!なんだこの棚の曲がり方は!この材質はなんなんだ!!」



なんという嫌なクレーマー。そう店員は思っているだろう。そして、この大男はとてもイカつい。骸骨のペンダントまでぶらさげていれば不気味さも一層だ。唯一、店員が気絶しないで済んだのはこの大男が地獄を震撼させる、”閻魔大王”トームル・ベイと知らない事だった。


「本棚を舐めるなーー!俺はキッチリ棚に本を納めるタイプ!曲がっている本棚なぞ、本棚ではない!本が傷付くだろうが!!」

「で、では!こちらの本棚はいかがでしょうか!?」


広告とは違うが、それと似たような本棚を紹介する店員。彼からすれば本棚なんてどれも同じだろうと思うが、本棚などに置ける家具に拘りがある閻魔大王は簡単にはいかない。


「ほぅ。先ほどと比べて頑丈そうではないか。良い材料を使っているな」


褒め言葉から入るとすぐに閻魔大王は、巻尺を取り出して本棚のサイズを正確に測り始めた。


「ふむ」


高さ、幅、奥行き。自分の部屋に合う優しい木の匂い。安定感がある作りと素材。色合いも俺の部屋にマッチすることだろう。だが、


「問題は値段だ!!高い!!」

「イチオシの品です!」

「確かにそれは分かる!!だが、マケてくれ!」

「無理です!」


本棚には拘りがある。しかし、予算の都合もある。本棚は暮らしにとって掛け替えのない大切な収納スペースだ。しかし、所詮は本のためにある収納グッズ!

ゴミ箱、衣替え用のケース、食器棚、洗濯籠、書類ケース、タンス、クローゼット。応用が利き、生活に重要な収納グッズとは違い、本だけだからこそその機能美を重視したいし、本だけだからこそ安いのを買いたい。言っている事が矛盾しているのは分かっている。



本しか入れないから、優れた本棚を安く欲しい!!


「かーーーっ!ならば他の店でも行こうかな!?本棚なんて他でも売ってそうだし!なんだったら、俺作っちゃおうかな!?部下に手伝ってもらって作っちゃおうかな!?」

「ぐっ!まさか、そんな。……いや、本棚を作るのは大変な労力とお金が掛かります!」

「だったら、マケたまえ!私の心が動く程度にマケるのだ!私の財布は比較的、緩い!そうだな、5%引きでどうだ?」


店員、この時。商売気質が昂ぶる。

5%引きくらいなら別にいいんじゃね?他に行かせるよりいいんじゃねぇ!?緩すぎるだろ!?


「分かりました!5%引きで交渉してみましょう!」

「そうだ、そうだ!いいね!君!私の労力もお金も節約された!ナイス判断だ!」


しかし、この5%引き。およそ1000円差。閻魔大王は思い浮かべるのだ、1000円あれば本の一冊、あわよくば二冊買えるという計算。

安く買いたいという本音もあるが、彼の真髄は余ったお金で本を買いたいのだ。本を買わなければ本棚の意味がない!

両天秤に見せかけ、得をしているのは閻魔大王のみだ。


「配送の手続きをお願いします」

「ああ。……!」



この時、閻魔大王は部下達のことが気になった。普段なら気にしないのだが、この配送という言葉を聞いた瞬間感じたのだ。


そういえば、そろそろ自宅から戦場まで行くのが大変だ。新たな拠点が必要になる。

近々、敵軍を蹴散らして拠点を作るとするか。他国の書物も気になっているところだし、本と本棚は私の移動範囲に必要だ。



閻魔大王はまだそこにいないのに勝手に住所を記入した。さらに付け加えておく。


「1週間後にはこーゆう拠点ができている。ここに持って来てくれ」

「は、はぁ……分かりました(見た事ない住所だ)」



翌日。

閻魔大王は戦場に帰ってきた。すぐに攻めて来た敵軍を彼が蹴散らして、部下達に敗走しかけていた罰として拠点を作らせる。

圧倒的な強さの裏側に、配送センターの方々に迷惑をかけない配慮。そして、決心を併せ持っている閻魔大王の強さは本物だ。



「本棚のお届けと組み立てに参りましたー!」

「うむ!待っていたぞ!」


念願の本棚が到着し、喜びを見せる閻魔大王。しかし、


「閻魔大王様ー!連合軍の奴等が再び息を吹き返して襲ってきましたー!」

「空気の読めない奴等がーー!!私はな、組み立てする様子もチェックしないと落ち着いて本棚を扱えんのだーー!」

「じゃあ、5分だけ待ってますよー」

「分かった!組み立てさん、3分で戻ってくるから!!おい、お前はコーヒーを用意してやりなさい!!」

「りょ、了解しました!」



閻魔大王は憤怒のまま、やってくる連合軍を1分で追い返してきた。出来上がった本棚にはすぐ本が埋められた。でも、取り出される事は少なかった。



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