白雪姫を敵視する女王…の恋人は魔法の鏡
分かりづらいかもしれません…(汗)
「鏡よ鏡、この世界で一番美しいのは誰?」
とある一室で、美しい装飾のなされた姿鏡に向けて女は尋ねる。
端から見れば女はただ頭の可笑しな人だっただろう。だが女の顔は真剣そのものであり、それに応えるかのように姿鏡にも変化がおとずれる
それまで彼女を映していた鏡の中が揺れ、青年が映し出された
道化師のような奇怪な衣装を纏い、端正な顔立ちをゆるゆると笑み崩れさせている。
全身でふざけきったようなその男は、瞳に呆れを滲ませた。
「もういい加減認めたらどうなん?何度聞かれても俺の言う結果は変わらへんで」
「うるさい!さっさとどうなのか言いなさいな!!」
顔を真っ赤にして怒鳴るのは、鏡の持ち主であり、この国の女王様である。
むきーっと鏡を叩いてくる彼女を見て、青年は息を吐く
「どうもこうも、世界で一番美しいのは白雪ちゃんや。世界中どこ探してもあないに可愛らしい子はおらへんで。あぁもう、本当にあの子は良い子やんなぁ。いつもにこにこしとるし、動物にも優しいし、肌は綺麗やし、金髪もサラサラしとって絹糸のようやし、瞳は宝石みたいにキッラキラ輝いて…」
「うぅぅぅ…」
鏡の青年の言葉を聞いていた女王の目にみるみる涙が溜まる。
ぎょっとした青年が口を開く前に、彼女は綺麗に結われていた漆黒の髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した
「ど、どうせわたくしなんて義理の娘よりも劣ってる存在なんだわぁぁああ!!何よ!白雪姫なんて呼ばれちゃってさ!わ、わたくしの何が悪いのよぉぉぉお」
涙、なんてもんじゃない。これは滝だ。
泣き叫ぶ女王は崩れるように床に伏せる
「じょ、女王さん?とりあえず落ち着いたって!?可愛いで!女王さんはすごく綺麗やし美人や!べっぴんさんや!…ただ、白雪ちゃんは別格ってゆーかなぁ。人間が適う美貌やないってゆーか」
「!!」
「なんでさらに泣くんや!?…てかどないしたん?いつもより情緒不安定やんか」
鏡は嘘を何一つ口にしていない。目の前にいるこの城の主はまだ若いながらも、世界一の美貌をもった娘の母であり、白雪姫がいなければ彼女が世界一美しい人だったろうと胸を張って言える
「だって、だってぇぇ…」
「女王さん、深呼吸しよか。吸ってー、吐いてーな」
なんとか慰めようとする青年だったが、興奮状態の彼女にその優しさは届かない
「あの子ったらわたくしが母なのに今ひとつ甘えてくれないしむしろ下に見てくるしぃぃぃい!!今日なんて、朝食を作ってあげようとするのさえ邪魔したのよ!」
「…はい?」
女王さんって白雪ちゃんのこと嫌ってなかったっけ?
首を傾げる青年の目の前で、女王の愚痴は続く
「『私がやります』なんて余計なお世話なのよぉぉお!きっとわたくしの手料理なんて食べたくないのね!そうよ!いつも頭を触ってくるのだってきって身長の伸びないわたくしを馬鹿にしてるんだわ!じ、自分がちょっとばかり発育いいからって!」
「…」
鏡は黙したまま目の前で泣く女王を見た。
平均女性より華奢で小柄な体躯。垂れ目で綺麗と愛らしい要素が絶妙に合わさった童顔。
白雪姫より遥かに年上だが、並べると女王のほうが年下に見える不思議
ぐすぐす鼻を鳴らす彼女の目も鼻も真っ赤で、青年はぷすりと笑いを零した
「女王さん、馬鹿やねぇ」
「け、喧嘩売ってるの…っ」
鋭く睨みつける彼女に「そうやなくてー」と慌てて両手を振り、鏡はこてりと首を傾げた
「でも女王さん、白雪姫ちゃん嫌いやなかった?」
「…嫌いよ。でも、わたくしはあの子の保護者なのよ」
「…あぁなるほど」
要するに、母親らしいところを見せたかったのに失敗ばかりで拗ねていたのだ。この女王は。
ずるりと音をたてて青年が鏡から出てくる
女王の家に代々伝わる魔法の鏡は長い歳月の中で力をつけ、今では時々こうして鏡から出てくるのだ。
「俺の中で世界一綺麗なんは女王さんや。だからもう泣かんで」
「うぅぅう…馬鹿ぁ…」
ちゃっかり抱きしめてくる青年にすがりついて、涙まみれの顔を彼の胸に埋める。
義理の娘をライバル視しすぎて色々勘違いしているらしい彼女に、青年は甘くほほえんだ。
綺麗な白雪姫は嫌いだけど、(一応)親として娘と距離を縮めたい複雑な女王様。
裏設定としまして、白雪姫の父親は亡くなってます。そしてその座を狙ってるのが鏡の青年(笑)