1章〜不思議な変化球〜
熱い熱いマウンドに、風が吹く。マウンドにいるその男に生暖かい風が吹き付ける。だがそんな風を気にせず投げる男。その男の放つ球は、誰もが目を醒ますほどの剛球だ。
『隼の如き速球』
そう呼ばれる球を放つ男の名は矢島隼人。高校3年生だ。
隼人にとっての最後の夏。甲子園へのラストチャンスなのだ。そして今その夢に届きかけているのだ。
後1人後1人。だがその1人が厄介なのだ。
その男の名は柿崎義教。隼人と同じく3年生だ。
隼人と義教は中学生まで、バッテリーを組んでいた仲だ。だからこそやりづらい。隼人も義教も、遠慮の気持ちは少しもない。だが、2人ともお互いを知りつくしている。だから中々勝負がつかない。投げども投げども、義教は打ち返す。だが隼人は自信のあるストレートで勝負するのだ。だがやっぱり打ち返す。
そんな戦いは40球にも及んだ。そして隼人は全ての力を1球に込めて投げた。義教は空振りした。隼人は勝ったのだ。だがなにかおかしかった。
そんな不思議を残して、隼人は甲子園への切符をてに入れたのだった。甲子園出場決定の興奮冷めぬ翌日。隼人は、いつものように練習に行っていた。行っていたのは、投球練習だった。しかもそれは何かをたしかめるようにだった。
隼人は義教を三振に取ったときの球を思い出そうとしていたのだ。
「クソッこれも違うか。あれも違うし、なんだったんだあの球は・・・。」
と偶然に投げたあの球を不思議に思いながら投げ続けていた。
隼人がこのように焦るのは訳があった。その訳とは、隼人の球種の少なさにあった。隼人の球種はストレート、ドロップ、フォークだけだった。ストレートは150km/hを超え、ドロップのキレはプロ級と言われている程だが、到底この3球種では抑えられない。だが義教を三振に取ったあの球なら、甲子園で通用する。そう思ったのだ。