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「ええと…。」
伊織は口ごもるが、頭の中はフル稼働している。
が、次の言葉が紡げない。
「特に決まってへんのなら明日はうちらと出かけるで。」
にっこり微笑む久子。
出来れば全力で拒否したい。
「えぇな?」
「…はい。」
最後の一言で伊織はしぶしぶ了承した。
一緒に出かけることが嫌なわけではない。
理由は別にある。
「楽しみやわぁ。何買ったろかぁ。」
これが理由である。
「前は久子が見立てたものさかい、明日のはわしが選ぶで。」
「関係あらへん。うちも選ぶで。」
そんな決まりしらんわ、と久子は言い返す。
この2人は伊織が遊びにくる度に物を買ってくれる。
他人に物を見立てることが好きなのだ。
たが娘である久美は、自分の物は自分で選ばないと嫌な性分である。
娘にそれを出来なかった分、伊織にそれをしているのだ。
伊織はいつも買ってもらうので遠慮したい気分だが観念するしかない。
あんなに嬉しそうな様子を見て断れるわけがない。
伊織は楽しそうな2人を残し、静かに部屋から退出した。
「さて、平等院に行きますか。」
早く行かないと本堂の拝観時間が過ぎてしまう。
少し足早に目的地へと向かった。