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「伊織さん。」
自分の名前を呼ぶ声にはっとする。
「久子さん!」
「真人さんが心配やさかい迎えに行ってくれへんかゆうて電話してきたさかいにな。」
「わざわざありがとうございます。」
もう、真人さんは過保護だな。
そう思いつつに後ろを振り返った。
そこには黒猫の姿はなく、何事もなかったかのように風が吹いているだけであった。
あれはいったいなんだったのか?
そんな疑問は一瞬にして消えた。
「よく来はった伊織。ゆっくりしてはってな。」
「ありがとうございます、美喜男さん。」
伊織は、やっぱり京都はいいなと思った。
京弁が心地よく耳に入ってくる。
まるで以前は生活の一部として聞いていたような錯覚さえ感じてしまう。
「このあとの予定はどないしはるん?」
久子の問いに伊織の肩がびくりとはねる。
うまく受け答えしなければ…。
「今日はまず平等院の方へ行こうかと…。」
「明日は?」