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「伊織!ぼさっとしなーい。」
「はーい。」
「ほら興奮しないで、ね。」
伊織は出来立てのトーストを口に入れる。
バターをぬり忘れたため、ただサクサクした食パンの味しかしない。
姉御肌の久美さん。
おっとりした真人さん。
子どものいない2人は自分を実の子のように育ててくれた。
ただ、絶対に『お母さん』『お父さん』とは呼ばせてくれない。
自分たちは本当の家族ではないから。
一線を引かれている。
本当の家族の元へ帰った時に本当の両親に言いなさいと言われた。
幼さ自分の言葉から両親と少なくとも兄が一人いることは間違いない。
それでも今は、彼らは自分の家族だと思っている。
伊織はパンの最後の一切れを牛乳で流し込むと伊織はリビングを後にした。
ここからは早い。
着替えながら歯を磨き、寝癖でクチャクチャの髪の毛をサッと手櫛で直すと準備完了。
「伊織、顔洗ってないでしょ?」
「あっ!」
スニーカーの紐を片方結んだところで思い出す。
さすが真人さんはよく自分のことを見てくれる。
「伊織ぃぃぃ!財布!」
「ああっ!」
バックの中を確認するとこれまた入ってない。
玄関から家の中へ入ろうと足を踏み出す。
たが次の瞬間、天地がひっくり返りバタンと大きな音がした。
「くっ…。」
足を滑らせ転倒。
「痛い。」
「ん~、伊織やっぱり僕も一緒に京都へ行こうか?」
「あはは、大丈夫です…。」