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「伊織ー!早く起きなさぁい!」
柔らかな女性の声で目を覚ます。
ああ、夢か…。
そう思い再び布団を被り直す。
「伊織!京都へ行くのでしょう!」
がばりと布団から飛び起きた。
時計は8時まであと2分と針が迫っている。
「寝坊…。」
バタバタと慌ただしく階段をかけ降りた。
リビングに入ると呆れた顔をした女性がいる。
「おはようございます、久美さん。」
「おはよう伊織。あと2分遅ければたたき起こしていたわよ?」
伊織は急いで起きて良かったとホッとする。
「ご飯早く食べなさい。」
ああ、いけない。
のんびりとしている場合ではなかった。
伊織と久美のやり取りを聞いていた男性が、新聞を折り畳みゆっくり顔を上げた。
「伊織ゆっくりでいいよ。もしバスに乗り遅れたら車で送ってあげるよ。」
「本当ですか!ありがとうございます、真人さん。」
「ちょっと真人、甘やかさないで!」
「いいじゃないか。急ぐといいことなんてないよ。」
バスに間に合いますと怒る、でもどこか楽しそうな久美と真人の会話を聞き伊織はクスリと笑う。
自分は幸せだ。
あの時、施設に入った伊織を祭りで会っただけという理由で引き取ってくれたのだ。
そうして田中の姓を貰い、伊織と言う漢字をあてた名前をくれた。
関わったらもう他人事ではない。
そこ思うことが2人のいいところだ。