とうほうかちこちやま
とうほうかちこちやま
昔々、ある所に、八雲紫とレミリアがいました。
「遺憾。おじいさんなんて配役、実に不愉快ね。あなたもそう思うでしょ? おばあさん」
「そうね。でも全ては作者が定めた運命よ。私達が抗うことは不可能だわ」
「確かに運命自体を変えることはできないけど、地の文と会話文の境界を曖昧にして色々できると思う」
そして、おじいさんたちの家の近くにある山には、いたずら好きなタヌキが住んでいました。
「紫、早く動かないと地の文は勝手に進んでしまうわよ」
「そうみたいね。じゃあ、まず手始めに……」
美女が畑で働いていると、フランドール・スカーレットという種類のタヌキが頻繁に畑を荒らて来ます。
今日もタヌキは、美女の畑を荒らしにやって来ました。
「やーいやーい。全部壊したろか!?」
「あっ、フラン! いやそれよりも『美女』ってなによ」
「真っ先に書き換えなきゃいけないことでしょう? ちなみに貴女は『カリスマ』にしておいたわ」
美女はたび重なるタヌキのいたずらに堪忍袋の緒が切れ、タヌキを捕えました。
「わーつかまったー!」
「フラン……、ノリノリね。いいの? 敵役よ?」
「無駄よ。私達のように境界や運命を操れる妖怪でなければ地の文に逆らえないわ」
「ええー。じゃあ久し振りに顔合わせたのに、意思疎通ができないの?」
「残念ながら。まあ私が地の文をいじることで多少の操作はできるわ」
美女は悪ダヌキを捕えられたことを喜び、カリスマを呼びました。
「あ、台本。えーっと、『カリスマーこのタヌキをてんじょーにつるしておいてくれないかー』」
するとカリスマはタヌキの足を縄で縛り、二人で協力して家に運びました。
悪さをするものがいなくなって安心した美女は、
「どうやらしばらくレミリアとフランの場面になるようね……。その間私は一人で書き換え作業をしているから、あなた達は適当にやっておいて」
と言って畑に戻って行きました。
カリスマと二人きりになったと分かったタヌキは、天井からつるされながらも話しかけます。
「お姉さま……。わたし、女医になりたい……!」
「はあ!? 何を言っているのこの子は!?」
「わたしが女医になれば、お姉さまのカリスマブレイクやパチュリーの喘息、咲夜の鼻血までも治るの……!」
タヌキはカリスマへの溢れる想いを口にします。
「美鈴の昼寝癖とか魔理沙の黒歴史とか、あとわたしの狂気も治るよ!」
「自分で自分の病気は治せないでしょ……」
「女医になるために、わたしはお姉さまと美女の子供になりたいの! だからおろして」
「はぁ……」
タヌキのしつこい求愛に疲れたカリスマは、縄をほどいて天井からおろしてやりました。
「……これ、スキマ妖怪に書き換えられた結果なの……?」
カリスマが人生に悩んでいると、タヌキがそっと近寄ってきました。
「うきゃきゃきゃきゃきゃキャキャキキャキャキャ死ねぇっ!」
なんと、タヌキは地面に生えてた銀のナイフで、カリスマを刺し殺
「させぬっ!」
そうとしましたが、すんでのところで避けられました。
「銀のナイフは地面に生えない! 無理矢理な設定を作らないの!」
どうやらカリスマは、刺されそうになったというショックで気が狂ってしまったようです。意味不明なことを言うようになってしまいました。
「あ、こら! どうしても私を退場させたいのね!? そうはいかなナナナナナ」
またたく間にカリスマの症状が悪化し、ついには言葉にすらならない声を上げるようになってしまいました。
「ぅごごごごごご、ユカりメ……オボえテろヨ……!」
カリスマは消滅してしまい、残ったタヌキは愉快そうに笑いながら、山に帰りました。
日が沈んだ頃に美女が帰ってくると、家の中のどこにもカリスマがいないことに気付きました。
「参ったわね……。ストーリを大きく変えるとそれを戻そうとする謎の力が働く……。どんなに回り道をしても最後は同じ結果になるんだわ。私が無闇に物語を変えたばかりに、吸血鬼は奇妙な死に方をした。……自らの命を使ってこの事実を示したレミリアには感謝して差し上げないとね」
カリスマがいないと分かった美女は、泣き出してしまいました。
すると、
「どうかしました!?」
空気が読めることに定評があるウサギが現れました。
「ああ使えない……。ここで東風谷早苗がきたら『奇跡で結未を変えることができたぞー』なんて展開に持ち込めたのに」
「何ですって!? タヌキがカリスマを殺してしまったですって!? それはひどい! 私がカタキをとってきてあげましょう!」
カリスマを失った悲しみで美女は上手く話せません。しかしウサギが空気を読んでくれました。
美女の境遇を知ったウサギは、タヌキを倒すべく山に向かいます。
タヌキはずる賢く、直接こらしめるのはできません。なのでウサギは一つの作戦を考え、タヌキに会いました。
「タヌキさんタヌキさん。大文字焼きをしましょう?」
「なにそれー。面白そう」
ウサギの誘いに、タヌキは快く返事をして一緒に出かけました。
「ここが今回焼く山ですよ」
「わぁ。これ全部焼いていいの!?」
「はい」
するとタヌキは喜び、火打ち石を「カチカチ」と鳴らして火をつけるなんて煩わしいことをせず、山を爆破しました。
爆発を背にウサギは片手を腰にあてて、もう片方の手の人差し指で天を差し決めポーズ。ウサギの心は熱く燃えてしまいました。
数日後、日本舞踊にすっかりはまってしまったウサギを心配して、タヌキはウサギのおうちを訪ねました。
「ウサギさんウサギさん。だいじょうぶ? あたま」
「あなたに言われたくありません」
タヌキの言葉は、ウサギの心を再加熱してしまいました。
それから三、四日、夜通しウサギが踊っていて、近くに住んでいるタヌキはもちろん、隣の隣の山まで騒音が聞こえ、みんな深刻な寝不足に悩んでいました。
そこでタヌキは文句を言ってやろうとウサギのおうちを訪ねました。
しかし、ただ言うだけではウサギの心の炎に油を注いでしまいます。なのでタヌキは一つの作戦を考えてきました。
「ウサギさんウサギさん。海の向こうにすごい踊りがあるんだって。なんでも『だんす』っていうらしいよ。いっしょに行こうよ」
「なんですって!? それは面白そう。早速行ってみましょう」
二人で海に行くと、そこには舟が二せきと美女がいました。
「いい具合に物語が狂ってるわね。謎の力が軌道修正できない位に、ね」
二人は変なことを言っている美女を無視して、舟に近付きました。
タヌキは言います。
「わたしはこのきらびやかな西洋の舟に乗るから、ウサギさんは今にも沈みそうな和風の舟に乗ってね!」
「ああたのしみです!」
二人はそれぞれの舟に乗り、海に出ました。気の毒に思って乗せてあげたのでしょうか、タヌキの舟には美女が乗っています。
舟はどんどん進み、陸が遠くに見える程、沖にきてしまいました。
「ダンスとは一体なんなのでしょう……! あれ? 舟に水が入ってきてます」
ウサギの舟は傷んでいたので、いつの間にか穴が空いてしまったのです。
「ああっ! 沈んでる! 私のダンスが! ……」
すぐにウサギは見えなくなってしまいました。
かたきをうつのに成功して喜んだ美女が言います。
「今よ……! タヌキに憎しみを抱いているという設定の私の心、山を爆破されてタヌキに殺意を抱いている動物達の心、ウサギの出す騒音に夜な夜なうなされてキレかかっている妖怪達の心……! この全ての心を一つにすれば、レミリアを蘇らせることができる……!」
どうやら手遅れだったようです。美女はそのまま海に身を投げ
「作者の思い通りになんてさせないわ! さあ吸血鬼の妹! あなたの存在を少しの間、この物語から切り離してあげる。その時間でレミリアを復活させなさい!」
「……っ! お、お姉さまを……?」
美女はそのまま海に身を投げてしまいました。
「ごふっ……! 自由に動けるのは、今から三十秒、失敗は、許されないわ……。……」
「うん、わかったよ……! わたしは、できる!」
タヌキは見事復讐を終え、
「この作られた世界のみんな、わたしに力をっ!」
安心して暮らしましたとさ。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
めでたし、めでた
――これが私にできる最後の干渉。八雲の力で直接地の文を描いてあげる。――
カリすマは蘇りまシた。
「……結末は変わった。我が誇れる妹、フランのおかげでね」
「お姉さま!」
タヌキはカリスマを生き返らせ、末永く、幸せに暮らしましたとさ。
「紫、礼は言わないわよ。貴女の事だろうから、『吸血鬼を助けるんじゃなくて結未を変えたかっただけ』とでも言うのでしょう」
「紫お姉ちゃん! またね!」
めでたし、めでたし。
キャスト
美女 :八雲紫
カリスマ :レミリア・スカーレット
タヌキ :フランドール・スカーレット
ウサギ :永江衣玖
あとがき。
地の文と台詞の分裂。すんごい読みにくかったかもしれません。
当初予想していた結末が、書いているうちに大きく変わっていました。紫さんにやられたんだ。