とうほうつるのおんかえせ
とうほうつるのおんかえせ
昔々、ある所に、お婆さんがおりました。
「清く正しい文々。新聞が全く売れませんよ。皆頭おかしいんじゃないですか」
お婆さんの名前は、射命丸文といって、自分こそが最も清く正しいと思い込んでいました。
お婆さんの仕事は町へ新聞を売りに行くことです。お婆さんは今日も新聞売りをして、家に帰るところでした。
「……。よく見るとツルがワナにかかっているじゃないですか」
帰り道で、お婆さんはワナにかかったツルを見つけ、可愛そうに思いました。
「あ! あやさぁーーーーん! たーすーけーてーくーだーさーいー!」
「……椛ですね。何を遊んでいるのやら」
お婆さんは、ツルを助けてやることにしました。助けてもらったツルは大変喜びました。
「ありがとうごさいます文さん! ではさようなら!」
ツルはお礼を言って、飛び立っていきました。
「……お礼の品位残しなさいよ。流石犬っころと言ったところですね。礼儀がなってません。明日の記事にしよう」
お婆さんは良い事をした気分になって帰りました。
その日の夜のことです。お婆さんは明日の記事を作るために、同居しているもう一人のお婆さん、姫海棠はたてに、助けたツルの話をしました。
「……という訳で、はたてはその駄犬について調べなさい。私は鉛筆削りに没頭してますから」
「えー面倒くさい。文が全部妄想すればいいでしょ」
「黙りなさいニート。私は毎日新聞売りに出て頑張っているのです」
二人のお婆さんは、今を生きるのに必死でした。
「はぁ。分かったよやればいいんでしょやれば。この旧式」
「旧式とは何ですか。伝統を守る人と言いなさい」
「無視無視。さあ私の最新機器よ! 椛を写し出しなさい! 隠者の先生!」
「その検索する前に『はーみっとごおぐぇ』って叫ぶ癖、やめませんか?」
「うるさい! ……あ、出た。『椛 駄犬』でヒットした」
「……そのまま続けてください」
二人のお婆さんが仲良くお話をしていると、コンコン、と戸を叩く音がしました。誰かが家に訪問してきたようです。
「あーやーさーん! 開けてください!」
「うわっ。椛が来ましたよ。はたて、記事を見られないようにね」
「へいへい」
お婆さんが戸を開けると、そこには美しい娘が立っていました。
「どうか一晩泊めてくれませんか? ちなみにわたしは昼間のツルなんかじゃないですよ!」
「おお、外は大層寒かったでしょう。清く正しく泊めて差し上げますから、お上がりなさい」
「ありがとうございますぅ!」
「(……媚びるな犬。今日はあなたの生態を赤裸々にしてやりますよ)」
「へ? 文さん何か言いましたか?」
「いえいえ何でも。夕飯の仕度をするので手前の座布団に入り口側を向いて座っていて下さい」
「そんな! わたしも手伝いますよ!」
娘はお婆さんの手伝いをして過ごしました。
次の日のことです。朝、お婆さんが起きると、隣に寝ていた娘がいません。お婆さんは、びっくりしてもう一人を起こしました。
「はたて! はたて! 椛がいません!」
「んー……。スマホが欲しい……」
「当分無理よ! ほら起きて!」
「……何だよ朝から。ふぁーぁ……」
「椛がいないんですよ! 記事は無事ですか!?」
「大丈夫よ。記事は全てデータにって、ああ!!」
「っっ!?」
「昨日ブログ更新するの忘れた……」
「……NEET」
「思うんだけどさ、それ『ねえてぃ』って読まない?」
「読みません」
お婆さん達が朝の会話を楽しんでいると、娘が玄関の戸を開けて、家の中に入ってきました。
「おはようございまーす! 洗濯物しましたよー! 掃除もしましたよー! ご飯もつくりましたよー!」
娘は家事を全てこなしてくれたのです。お婆さん達はとても喜んだ表情をしていました。
「(……どうやらただのばかな子のようですね)」
「(このまま住まわせれば何かと使るんじゃない?)」
「(そうですね。ふっふっふっふっ)」
「(文も家から出なくて済むようになるかもね。くっくっくっくっ)」
すると、娘は言いにくそうに、話し始めます。
「あ、あの、わたし、身寄りがないんで、この家に置いてくれませんか?」
「いいですよ。気が済むまでいて下さい。あ、家事は頼みましたよ」
「あと新聞売りもね」
お婆さん達は、喜んで娘を迎えました。
ある日の事です。
「文さん! 機織をしますのでのぞかないでくださいね!」
「そうですか。精々頑張って下さい」
娘は機織をするために、隣の部屋にこもってしまいました。
娘が出てきたのは次の日の朝です。
「できました! 文さん、これを売ってお金にしてください!」
娘は、それは美しい織物をお婆さんに渡しました。
「な、こ、これは……?」
「わたしの努力の結晶ですよ! 今日も機織をするのでのぞかないでくださいね!」
そう言って、娘は再び部屋にこもってしまいました。
お婆さんは、こんなにも美しい布を作る娘の作業風景を、見てみたくなりました。
「はたて、いざという時の為に設置しておいた監視カメラ、スイッチオンです」
「ニートとか言うけど私ってかなり役立ってるよね」
お婆さん達は、娘の約束を破って部屋の中を見てしまいます。
そこには、部屋を物色している娘の姿がありました。
「これは!」
「何コレ!」
すると、娘が部屋の中から出てきました。
「文さんとはたてさん。バレてしまいましたね。そう、実はわたしはあの時助けてもらったツルなのです」
「知ってますよ」
「逆に何で正体がバレないと思っていたのか聞きたいわ」
娘はお婆さんの言葉を聞かなかったことにして続けます。
「正体がバレてしまった以上、わたしはここには居られません。今までありがとうございましたさようなら」
娘は、素早く外に出てしまいました。
「あ、こら! 待ちなさい! 部屋で物色して何が目的だったの!?」
「すぐに分かりますよー。わたしの恩返しですー……」
お婆さん達が止めるのも聞かずに、ツルは遠くへと飛び去ってしまいました。
すると、
「え! 何!?」
「うわぁ! 服が!」
お婆さんが着ていた服がビリビリに破けてしまいます。その服は、ツルが洗った服でした。
「う、嘘……」
「家がーー!」
破れた服に反応する前に、今度は家が爆発してしまいます。家は、毎日ツルが掃除をしていました。
「あ、ああ、何もかも……お腹が痛い!」
「私の『隠者の先生』……は、腹がぁ!」
全てを失ったことに絶望を感じる前に、お婆さん達のお腹が急に痛くなりました。食事は、毎日ツルが作っていました。
「……してやられた」
「……心を許したのが間違いだったね」
お婆さん達は、ツルが飛んで行った方向を、恨みのこもった目で睨み続けましたとさ。
善意でツルを助けたのに、恩を仇で返されてしまいました。世の中何を信じて良いのか分からないのです。めでたしめでたし。
キャスト
第一お婆さん:射命丸文
第二お婆さん:姫海棠はたて
つる :犬走椛
文と椛は仲が悪いと言うことで、こんな事になりました。