とうほううらしまたろお
我が右腕が止まらぬ!
とうほううらしまたろお
昔々、ある所に、水橋パルスィという心が汚れているように見えるけど実は優しい若者がいました。
ある日、たろおが海辺を歩いていると、子供が亀をいじめているのを見つけました。
「ああキスメキスメー! もふもふしたいよー! 甲羅の中から出てきてよー!」
「きゃー! 土蜘蛛に襲われてるー! そこにいる偶然通りかかったパルスィさーん! 助けてー!」
亀に呼ばれた気がしたたろおは、そばに行ってみました。
「……何でそんなに楽しそうに襲われているの? 妬ましい妬ましい、ね、た、ま、し、い、わ。爆発しろ」
「絶対に離さない! キスメへの愛は本物なのだーっ!」
「きゃー! ヤマメに甲羅から引きづり出されるー! そこで嫌らしい目つきで見ているパルスィさーん! はやく助けてー!」
亀はそう言って泣き出してしまいました。亀は、泣きながらもたろおの事をずっと見ています。
「くっ……。そんな目で見るな! 私の中に眠る嫉妬に狂いし暴虐の魔物『GJC』が目覚めてしまう!」
「きゃー! パルスィさんのGJCが発動してしまうー! GJCが発動したら最後、狙われた二人のうちどちらかが死ぬまで嫉妬を見させられるんだわ! まさに決死魔術!」
「何ということだ! そんなものが放たれては私の身が持たない! 私はここで失礼させてもらう! また会おう、キスメたん!」
たろおは子供を追い払い、亀を助けてあげました。
「……もう大丈夫だわ。憎き土蜘蛛はもういない……」
「ありがとうございます翠緑の賢者さん! 惚れました!」
「ふふ。こんな私を惚れてはいけないわ。私は神に見放されし孤独の姫君。私と一緒に居る者は必ず不幸になる……。さあ、故郷に帰りなさい。グッバイ」
たろおはそれだけ言い、亀を海の中へ帰してやりました。
亀を助けてから数日後、たろおが再び海に行き、武術の訓練をしていると……。
「パルスィーさーん! おーい!」
「む、何? また誰かが私を狙っているの?」
どこかから声が聞こえてきます。
「こっちですよー! キスメですよー!」
「何だ。この前の弱き龜の子ね」
すると海の中から亀が出てきました。
「この前は助けてくれてありがとうございます」
「礼には及ばないわ。当然の事をしたまでよ」
「いえいえ、ぜひお礼をさせて下さい! パルスィさんを海霊殿に招待します!」
「海霊殿? 私の知識の図書館に、そんな物は存在しない」
「それはそうです! 海霊殿は海の底にあります。普通の人なら知る事は無い場所です!」
「そんな所に、海を捨て陸に生きる事を選んだ愚かな人間が行けるというの?」
「行けますとも! さあ! わたしの甲羅の上に乗って(桶の中に入って)下さい!」
「分かったわ。……其処(底)には安住の地があるのだろうか」
たろおを乗せた亀は、どんどん海底へと潜って行きます。
海の中は、見渡す限りが青の世界で、それを彩るようにカラフルな魚や美しい桃色のサンゴが生息していました。
「……美しい。嫉妬に溺れたこの私の心も、この世界の前では何の価値も無いのよね」
たろおが考え事をしていると、海霊殿に着きました。
「着きましたよ! ここが海霊殿です! キレイでしょ?」
「そうね。何よりも美しい建物だわ。まるで磨きたての金剛石のように、ね」
「お姫さまのところへ案内しますので、ついて来て下さい」
亀に案内され、どんどん奥に進むと、海霊殿で一番偉い乙姫さまとその他大勢が、熱い歓迎をしてくれました。
「ようこそたろおさん。この海霊殿の主、古明地さとりです。いいえ、何も言わなくても結構です。私には真の義眼がありますから」
(くっ……! 私の心を読まれているわ……!)
「そう。私はあなたの深層心理を観る事が出来る。……え、何ですって!? あなたも奴に狙われているのですか!?」
(こいつ……私の宿敵を一瞬で……!)
「実は私も狙われていました。でももう大丈夫です。ここには私達の味方しかいません」
(そんな楽園が存在していたのか! 迂闊だったわ。もっと早く知っていればこんな体になることは無かったのに……)
「可哀想に。あなたは奴に身を焼き尽くされてしまったのね。いいわ、気が済むまでこの海霊殿に身を置きなさい」
「……感謝するわ。私の仲間よ」
そしてたろおは宴会場まで連れられました。
たろおが席に座ると、猫や鳥が様々なごちそうを運んで来て、運び終えると今度は素晴らしい音楽を背景に、見事な舞を披露してくれました。
「ここが……私の求めていた楽園」
たろおはこの場所を気に入り、一日、もう一日と過ごす内に、三年程の月日が流れてしまいました。
そしてある日乙姫さまが言います。
「パルスィ。帰る刻が来たようね」
「何ですって!? 私を見捨てると言うの!?」
「違うわ。……此れは始まり。貴女は私と違って本当は美しき心を持っている。此処に居続ければやがてその身を滅ぼしてしまう」
「嫌だわ! 私はこの場所で最後を迎える!!」
「出来ればその望みは叶えてあげたいのだけど、どうにも出来ないわ。此れは私の意志では無く、海霊殿の決定。私から贈り物がある。せめてもの気持ちよ」
「……分かった。海霊殿の決定ならば何も言えない。贈り物とは何?」
乙姫さまは寂しそうに、一つの小さな箱を取り出しました。
「玉手箱よ」
「何が封印されているの?」
「この中には貴女の『時』が入っているわ。その『時』は貴女の力にもなり、害にもなる。気をつけて使いなさい」
「……問題無いわ。相棒は私の真の心を知っていてこの箱を渡しているのでしょ?」
「……同士には何でもお見通しね。私の心を読める生物は貴女以外に居ないわ」
「じゃあ、お別れね」
「さようなら、パルスィ」
「私達は何時までも、心が繋がっている」
「私達は何時までも、心が繋がっている」
たろおは、海霊殿に来た時と同じ亀に乗って、地上に帰りました。
たろおが地上に出ると、何だか違和感を覚えました。
「ここは……幻想郷では無い……?」
たろおが武術の訓練をしていた岩場が無く、亀を助けた海岸の地形も少し変わっています。
「三年とは、ここまでも世界を変えるのね」
たろおは考えられる理由を考え、自分を納得させました。
するとそこに、一人の子供が歩いて来たので、事情を聞きました。
「ぇと……ぁの……っ、土蜘蛛さん? み、水橋パルスィというひとのい、家をご存知ですか?」
「んん? 水橋パルスィの家なら千年前に本人が行方不明になって、取り壊されたねぇ。君はパルスィの孫か何かかい? あいつは私の友達だったんだ。君はあいつによく似ているよ。どうか私をヤマメって呼んでくれないか?」
「と、と、と、友達……! ゎ、私……ヤマメと……! そ、そんな……良いの……?」
どうやら海霊殿での三年は、地上では千年と等しいようです。たろおは、皆にすっかり忘れられてしまっていました。
悲しみの余りうつむいていると、たろおは乙姫から玉手箱を貰ったことを思い出しました。
(これは、さとりがくれた箱。この中には私の『時』が封印されているらしい。『時』とは地上の千年の事か? ならばこの箱を開ければ……失った千年を取り戻せるかもしれない!)
たろおは思いきって箱を開けてしまいました。
すると中から、真っ白な煙がもくもくと出てきます。
「ああ、私の記憶が次々と……」
煙の中に、楽しかった乙姫さまとの生活が写し出されます。
最後は、滅多に見る事の無かった、乙姫さまの笑顔が写りました。
「……本当に、お別れなのね……」
そして煙が消えると、そこには千年の時を経た、浦島太郎が立っていました。
「あ、パルスィ……パルスィなのね!」
「……久し振り。ヤマメ」
……書いてて楽しかったけど、読みにくいですね。
キャスト
浦島たろお:水橋パルスィ
乙姫さま :古明地さとり
亀 :きすめ
いじめっこ:黒谷ヤマメ
猫や鳥 :お燐やおくう
竜宮城 :地霊殿