街灯を照らす
足が痛い。
それが使われる場面は、主にサボる時だと僕は考えている。現に今、僕は仕事のサボりの真っ最中だ。
サボる理由なんていくらでも考えられる。
頭が痛い、お腹が痛い、少し熱っぽい、おばあちゃんが危篤などなど。
なんで、それらを使わないかって?
そんなの演技が必要になるからに決まってるじゃないか。足が痛いという理由は座っていれば突き通せるのだ。歩くと痛い、立っていると痛い設定にすれば演技なんてしなくてもサボれるのだ。
僕はそもそも親の手伝いで、絶対に働かなければならない歳でもない。
ましてやパン屋の仕事なんてごめんだ。
みんなは羨ましいと言うけれど、僕は機械職をやりたい。
この街は地下にあり、ほとんどが工業地区で構成されているのに。
「足が痛いなら、外で座って客引きでもしてろ」
父にそう言われ、店の外の三人用ベンチに座りながら街行く人々を眺める。
お客さんを入れすぎても大変になってしまうので、一旦様子見だ。
街灯がレンガの道をオレンジに照らす。
歩く人はほとんど見たことある人で、特におもしろいことなど何も起こらない。
「はぁ…つまんないな」
ため息が出てしまうほどに。
上を見ても暗闇が広がってるだけだし。少し寝てても大丈夫そうだ。
「すみません…今やってますか?」
声をかけられることなどそうそうないので、驚いてしまった。
少しの間が空いた後、接客を思い出しすくに対応する。
「もちろんやってますよ。ぜひ買っていってください」
営業スマイルで接客だ。
今は開店してから時間も経って、お店には客がいなかった。それを見てやってるかどうか不安になったんだろう。
「そうでしたか、ありがとうございます。じゃあルナはここで待っててね」
三十後半くらいのお姉さんに丁寧に礼をされ、お店に入っていく姿を見守る。
三十後半はもうおばさんか。かなり綺麗な方だったからお姉さんといっても違和感はなかった。
「私のお母さん、綺麗でしょ」
そして隣に座ってきたルナという子もまた、綺麗だった。
ここら辺では珍しいサラサラな髪質。目鼻立ちがくっきりしていて、顔も小さい。
「あなたも綺麗ですよ」
「あら、そういう冗談言えちゃうのね」
冗談ではない。
しかし、接客の時のように振る舞わないと、照れてしまいそうだった。
無邪気そうな笑顔が見られない。
同年代に女子はいるが、小さい頃からの付き合いだ。慣れというものがある。
「名前なんて言うの?歳はいくつ?」
「僕はカロ。14歳だよ。君は?」
「私はルナ。年齢はカロと同じだよ…あ、でももうすぐで15になるかな」
同い年だとは思わなかった。あまりにも見た目が大人びていて、4つくらいは上だろうと思っていた。
「カロはここでなにしてたの?」
サボってた…なんて印象を悪くしてしまうかもしれなくて言いづらい。
でも、嘘つきよりはましか。
「普通にサボってたよ」
「そうなんだ!てっきり客寄せパンダ的な人なのかと思ってたよ」
「どこにパンダ要素あったんだよ」
「なんというか…雰囲気?おいしいですよっていう自信が溢れてた気がしたから」
ルナの首を傾げる仕草は見た目の大人っぽさに反して、子供っぽさが見えた気がした。
恥ずかしいけど、言ってることに間違いはなかった。この街では圧倒的にうちのパンがおいしいと思っているし、それを作る親のことも尊敬している。
「すごいね。気持ちを隠すの上手い方だと思ってたんだけど」
「でしょ〜!観察力に自信あるんだよね。それじゃカロも私のことどう見えるか言ってみてよ」
「うーん……」
正直難しい。人の性格なんて瞬間的に全部がわかるわけではないし、話したのだって今が初めてだ。
当たってなくてもいっか。
「見た目は大人っぽいけど、話してみれば無邪気な子供って感じ?」
「ほうほう」
まだ求めてくるのか。
「だけどその子供っぽさは本当の悩みを隠すためのものとかね」
これはただ自分と重ねただけだ。
困った時はよく接客するときみたいに自分を演じるのだ。その方が楽なときもある。
ふとルナの目を見てみると、こちらをじっと見ていたようで目が合ってしまった。
いきなりのことで、ドキッとしてしまい顔が熱くなるのを実感する。
「カロもすごいね。ちゃんと人のこと見れてるじゃん。だいたい当たってる」
「そうなんだ」
当たると思ってなかったのと、悩みがあるということで気を遣った発言をしようする。
でも、言葉を探しても出てこない。沈黙が流れて気まずさに胃が痒くなる。
「聞かないの?私の悩み」
「聞いてもいいの?今日会ったばっかりなのに」
「カロはなんか私と似てる気がするから」
似てる、か。
こんな見た目も性格も完璧に近いルナの悩みが、俺みたいな悩みと同じなのだろうか。
「私ね友達いないんだ」
同じなんかじゃない。これは僕よりもずっと辛い悩みだ。
「近所にいる同い歳の子はみーんな男の子で、話すたびにもじもじしてて距離感じるし。それが恥ずかしいとか緊張してるって知ったときはとても悲しかった」
「それは……」
「わかってるよ。友達としてじゃなくて恋愛対象として見られてたことも、誰も悪くないことも」
ルナは笑ってみせるが、作り笑顔であることは誰が見てもわかった。
僕も話し始めに照れてしまっていたことを謝るべきだ。
「でもねカロは普通にお話してくれて嬉しかった…それは友達としてじゃなくてお客さんとしてかもしれないけど」
「お客さんとしてじゃないよ。一人の同い歳…友達としてさ」
「ほんと?」
涙ぐみ始めていたルナの小指を拾い、指切りをする。手に触れることに緊張してしまうが、全力で隠す。これはバレてはいけない。
「これでこれからも僕たちは友達さ」
「うんっ!」
眩しすぎるくらいの笑顔を向けられ、怯みそうになるが、それではダメだ。
友達として接するにはどうすればいいかわからない。僕だって友達が多いわけじゃない。
でも、向けられた笑顔の返し方なら親に嫌というほど叩き込まれた。
本物の笑顔で返すんだ。
「ルナ帰るよ」
「はーい」
お店のドアが開きパンの入った袋を持つルナの母が出てくる。
ルナは焼きたてのパンと並んでベンチを後にする。
「カロまたね」
「ああまた」
手を振る君の振り向いた姿と笑顔は街灯すら照らせるほど眩しくて直視は難しい。
けれど僕は気持ちを隠してちゃんと見なきゃいけない。
友達なんだから。
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