外伝:永遠の虜囚
この話はユニオンブレイカーから浜辺のスローライフに接続する話で、
ユニオンブレイカー本編のエピローグの余韻が壊れる可能性があります。
ご了承ください。
虚無の大亀裂の消滅から50年ほどの月日が経った。
人々の間であの戦いは昔話となり始めるほどに平和な日々が続いていた。
皇帝ゼロが退位し共和制となった首都ユーニスの商業区の一角には立派な剣術道場があった。
道場主の名はユーマ、大亀裂を消滅させた、英雄その人である。
今日も熱心に弟子たちの指導をしていた。
「ぐえー、師匠ほんとにもうすぐ70なのかよ!なんでそんなにキレがあるんだ!」
「剣技ってのは、年を取るほど経験で鋭くなるものなのさ……」
「いやおかしい、ティアさんやフィーナさんはもう指導から引退してるし……」
「二人より俺の方が、ちょっぴり頑丈なだけだと思うぞ」
「いやそんなわけない、写真でしか見たことないけど、師匠の師匠の方がどう見てもガタイがいいのにもう亡くなってるって言うし」
「リュウガさんはほら暴飲暴食が祟ったんだよ、本人もガハハっていいながら亡くなってたし……」
最近は定番となりつつある、弟子たちの年齢弄りを軽く流しながら模擬戦を何本もこなしていた。
そんな時……。
バタン!
突然道場のドアが強く開かれた。
「先生!、いらっしゃいますか!」
「ん?」
そこにはかつての教え子で今は地方都市で剣を取っているはずの男達の姿があった。
「よかった!先生ならきっと何とかしてくれるぞ!」
肩を貸されていたもう一人の元教え子が、道場の床に横たわる。
腹部には黒い靄がまとわりついた刺し傷があった。止血は済んでいたが顔は青褪め、今にも命の灯が消え去りそうだった。
「治癒魔法で傷自体は塞いだのですが、なぜか具合がよくならず、治癒士の方も原因がよくわからないようで…‥先生なら相棒をどうにかできるのではないかと……」
「……これは俺にもどうにもできない」
「どうしててですか先生!先生は聖剣技を極めていらっしゃるはず!治せない傷などないのでは!」
「聖剣技は生命力を増幅させる技だ、生命力が吸われた者、使い果たした者には意味がないんだ……」
「そんな、少し黒い獣に刺されただけなのに、そんな!」
「その黒い獣は倒したのか?」
「え、いや逃がしてしまいました、先生は何か知ってるんですか?本当に相棒はもうどうしようもないんですか!?」
「彼はもう助からない……それは間違いない」
「ハハ、少しの油断が命取りになっちまったな……」
「相棒!お前はしゃべるな」
「いや、自分のことは自分が一番わかる。俺はもう消えかかってる、先生に恨み言を言うなよ、何百人と弟子がいる人なのに、俺たちのことを記憶していてくれただけでも感謝しないとな」
「相棒……」
「はあ、締まらない最後だったな……」
そう言うと彼は息を引き取った。
亡くなった、教え子の生家に行き、ご両親に彼が戦いによる治癒が不可能な傷で命を落としたことを伝えた。
「剣など学ばせるんじゃなかった……か。そりゃそう思うだろうな……」
彼の両親に言われた言葉が胸に刺さる。剣など学ばなければ彼は危険な目に確かに合わなかったかもしれない。
もっと言えば俺が虚無を滅ぼしていればこんなことは起こらなかった。
そう虚無だ、なぜ今更になって現れたのか、大亀裂と共にこの世からは消え去ったはずだ。
俺は何十年ぶりに虚無の気配を捉えようとした。教え子たちが仕留め損ねたやつがまだいるはずだ。
虚無の気配は一つのはずだった……だが俺がとらえた気配は複数あった。
消さなければならない、これは俺の責任なのだから。
俺はユーニスに戻ると、道場にいる師範代たちへ道場を譲ることにした。
「え?師匠急にどうしたんですか?もう若くないから隠居ですか?」
「ああ、隠居だ、隠居してやりたいことができたんでな」
「ええ!?そんな全然老けてないのに……」
「全然老けてないから隠居するんだよ!身体が動くうちにな!」
「な、なるほど、とにかく隠居しても、たまには道場に顔を出してくださいね」
「ああ、なるべくそうするよ」
現れた虚無は結論から言えば弱かった。だが虚無が消え去ったと信じている今の若い剣士には手に負えないものだった。
また亀裂が再び現れて出現しているわけでもなかった、何年かに一度、この世界に滲み出てくる虚無が形になって出現しているという感じだということがここ数年の調査で分かったことだった。
俺は各所を巡り、虚無はまだ消滅していないということ、だがこれは世間には発表してほしくない、と頼んで周ろうとした。
だが聖都に行った時だった。大聖堂に入ろうとすると、衛兵に呼び止められた。
「まてまて、聖女フィーナは前年に逝去されている、それに英雄ユーマがお前のように若い見た目なわけないだろう、聖女と同年代の老年のはずだ」
「いや、俺はちょっと人より若々しいだけというか、フィーナが亡くなったって言うのは本当なのか?」
「どこの田舎暮らしだ、聖光謙教会上げての葬儀もきちんと執り行ったのだぞ!」
「あのフィーナが……死んだ?俺は何をしていた?俺は……」
「おい、なんだおかしくなっちまったのか?とりあえず教皇様は忙しいから早く帰れ」
俺はされるがままに大聖堂前から追い払われた。
「そうだ、ティアやカンナは……」
かつての仲間たちが今どうしているのかが気がかりになり俺は西山港に向かった。
俺は港で聞き込み、カンナがまだ元気だということを聞いて少し安心し、彼女の自宅へと向かった。
「あーカンナ、俺だユーマだ、今はなんか船長を引退したって聞いたが、元気か?」
ギィ。
ドアが開くとそこには小柄な老婆が立っていた。
「ああ、ユーマじゃないか、ハハッあんただけ全然変わってないんだねえ、ちょっと抜けてるところとかもさ」
「カンナ……だよな」
「そうだよ、あたしはカンナだ、もう80のばあさんだけどね」
「80⁉」
「そうだよ、あんたも道場を弟子に任して消えたっ切り10数年もなにしてたんだい」
「虚無の残滓を調査していた……」
「虚無ぅ?あれはあんたが消し去ったはずだろ」
「消えてなかったんだ、弟子が犠牲になった、だから虚無の残滓を消して回っていたんだ」
「そんな話ここ10年で聞かなかったけど、そうか、あんたが事前に全部始末してたのか」
「そうか、世の中のみんなは虚無がまだいることに気づいてないんだな?それはよかった」
「いや、あんたなんでもかんでも一人で抱え込むのはやめときなよ、あたしは年取ったから一緒に旅はできないけど、東方の剣士達に注意喚起することぐらいはできるんだよ?」
「いいんだ、俺はまだまだ元気だし、やることもないから、虚無の後始末ぐらいはやらせてくれ、ところでティアは今も東方にいるのか?」
「ティア?ティアなら淵平城で氷剣士の相談役を務めてると思うよ。最近は手紙もこなくなったからちょっと心配だし、会いに行くなら早い方がいいよ」
「ああ、カンナありがとう、長生きしろよ!」
「あたしはもう十分生きたよ!いいからさっさと行きな!」
西山港から淵平城への道のり、かつてはここでカンナやリュウガおじさんと共に化け蟹様と戦ったんだよな……。
そんなことを思い出しながら、船に乗っていた、流石に今回は化け蟹様とは出会わなかったが、あのヤドカリはまだ元気なんだろうか。
自身が化け物寄りになっている気がした俺は今ならあのヤドカリとも分かり合えるかもなどと考えながら淵平城に着いた。
氷剣士の道場は男子禁制というわけではないが女性が継いできた剣術だけあってなんだか自分の場違い感が凄いが、とりあえずティアについて尋ねてみた。
「相談役ですか?今は病で臥せっていまして、ご家族の方以外は面会を断っているんです」
「ユーマが来たと伝えてもらうことは可能ですか?」
「え?構いませんが、ユーマって英雄ユーマですよね?ユーニスにいると聞いていますが、このような遠方まで足を運んだのでしょうか?」
「ああ、ここまで来たんだ……そう伝えればきっと」
受け付けてくれた氷剣士が、去って数分、違う剣士がやってきた。
「ティア?君もあまり変わってないんだな」
「……やはりご本人ですね、私はティアの孫です。祖母はこちらに居ます」
ティアだと思った女性はティアの孫だった、こんなに似るもんなんだな……
通された部屋では豪華な布団で横になっている老いた女性がいた。
「コホッ、こんな姿見られたくないから、会うかどうか迷ったんだけどね、でも多分これが最後のチャンスだから」
「ティア……なのか」
やせ細り、年齢のしわを刻んだ手が見えた、剣を握っていた時とはもう別物だった。
「ああ、ユーマはあの日のままなのね、出会った頃のまま、あれは帝国の魔剣狩りに、囲まれてた時だったわね……」
「あの時は無我夢中で割って入ったんだ」
「フフ、あなたの第一印象はおせっかいな邪魔者だったわ」
「そ、そうだったのか……」
「そのぼんやりしたところも変わらないのね、ああ、私もあなたと同じだったらよかったのに、また並んで剣を取れたら……」
「まずは病気を治すところからだと思うぞ」
「ハア、治らないわよ、フィーナにも太鼓判押されてる。そういえばフィーナは去年亡くなったそうだけどあなたには会えたのかしら?」
「いや、ここ10数年は会っていない……」
「そう、じゃあわたしは運が良かったのね、薄情者に会えたんだから」
「ティア……」
「さあ、もう帰って頂戴。私はもう満足したから。この姿をあなたの記憶に留めたくないの」
「わかった……じゃあ」
「ええ、『さようなら。』ユーマ」
俺は氷剣士の道場を後にした。
かつての旅の仲間たちは皆、年老いていった、変わってないのは俺だけ。
ユーニスに戻った俺は帝国宝物殿の前に居た。
ここにはかつての皇帝ゼロが居るはずだ。
「ゼロに会いに来た、会わせてくれないか?」
衛兵が取り合うよりも早く宝物殿の扉があき、銀色の長髪を風になびかせた見覚えのある男がこちらに歩いてきた。
「ずいぶん攻撃的な魔力を浴びせるなユーマ」
「ゼロ……少し老けたか?」
「時が止まったみたいなお前がおかしいだけだ、これでも時を操ってごまかしてはいるんだがな」
「いや、あまり変わらない姿を見て少し安心したよ」
「他の仲間は皆、死に別れたからか?神とやらがいるなら随分残酷なことをする、俺が呪われるならわかるんだがな」
「呪いだとは思っちゃいないさ。それよりゼロ、ユニオンソード一式を持ち出してもいいか?」
「なんのためにだ?」
「虚無が滅びてなかった」
「そんなことは俺も把握している、お前が先回りして狩り取ってることもな、あの程度の虚無、現代の剣士や魔導技術でなんとでもなる。何故お前がやる必要がある?お前はすでに世界を救っている」
「救えていない、弟子は虚無にやられた、それに大陸中で虚無が滲み出てきている」
「数年に一度の事態だ、ただの獣に襲われて命を落とすのと何の違いがある?」
「俺が消し去っていれば出なかった犠牲だ」
「……生きるのが辛いか?」
「……ああ、今の世界は俺には少し辛い」
「そうか、わかった、ユニオンソード一式は持っていくといい。だが、いやもう何も言うまい」
「助かる」
俺は宝物殿にあるユニオンソードを握った。
もう役割を果たしたのか剣士たちの声は聞こえなかった。いやあえて話しかけてこないのかもしれない。
ユニオンフレームとディメンションギアを身につけ、軽く次元を切り裂いた。
ここが俺の新たな戦場になる。
俺はただ一人次元の狭間へと入っていった。
永遠の虜囚 完。
最後まで読んでくれて、本当にありがとうございます!
もし、ちょっとでも「面白いじゃん!」と思っていただけたら、 ↓の【★★★★★】を、ポチっと押して応援していただけると、作者が、本気で泣いて喜びます…!
ブックマークも、ぜひぜひ、よろしくお願いします!
また次回、お会いできるのを楽しみにしています!




