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外伝:そして、雷鳴は止んだ

これは、ユニオンブレイカー本編以前の過去エピソードです。


非常に暗い話になりますので、読むのは注意してくださいね!

村が燃えていた。


故郷のサイファ村が、焼け落ちていた。




帝都の魔導技師、ジャンは久しぶりの休暇を取り、故郷へと帰る途中だった。




しかし、目の前に広がる光景に、彼は自分の目を疑った。


これが現実なのかと。




「なんで……なんでサイファ村が燃えてるんだ!」




ただの火事かもしれない。


一人でも多くの人手が必要かもしれない。




そう思い、ジャンは村へと駆け寄った。




だが近づくほどに、それが火事ではないと確信させられた。




村のあちらこちらから、爆炎が吹き上がり、悲鳴が響いた。


ひと際大きな爆炎が炸裂したあと、村は一瞬の静寂に包まれた。




炎の揺らめきの向こう、三つの人影があった。


そのうち一人は、紅く輝く魔導甲冑――マギア・フレームに身を包んでいた。




紅い鎧の男は一瞬、ジャンの方を見たようだったが、気にも留めずそのまま立ち去っていった。




「魔剣狩り……どうして、俺は剣を捨てたのに、どうして……!」




ジャンの嘆きが、燃え盛る村にこだました。




少し時を遡る。帝国歴270年、帝都ユーニス。




魔導技師のジャンは、いつも通り帝都の魔力ラインの点検に勤しんでいた。




「ジャンさん、ちょっとこっちの魔力の流れが良くなくなってきてるみたいです」




後輩の魔導技師の声が現場に響く。




「うん、そこの魔力バイパスが少し老朽化してるな。部品交換、頼むよ」




ジャンは淡々と指示を出し、次の点検箇所へと移った。




「ジャンさんも、元は雷剣士だったんですよね?」




後輩の問いかけに、ジャンは少し困ったように答えた。




「もう何年も前の話だ。帝国が20年前に制定した《魔剣廃棄法》で、剣士として生きる時代は終わった。雷剣士だった俺も、まだ魔導技師になれて良かったと思ってる」




「今の技師としての生活には満足している。故郷にも仕送りを送れるしな」




(《魔剣廃棄法》とは、帝国歴250年に制定された法律で、許可された上級魔導技師や聖光謙教会の聖剣士以外の者による魔剣の所持・使用を厳しく禁じている。違反者は《魔剣狩り》に追われ、最悪の場合は処刑される。かつて、大地剣士の里は皇帝自らが赴き粛清したと聞く。俺は抵抗の意思もなく、魔剣を帝国に差し出して魔導技師になったんだ)




今日の作業が一段落し、後輩が声をかけてきた。




「ジャンさん、明日から休暇でしたよね?」




「ああ、今回は4日間あるから、久しぶりに故郷へ帰省しようと思っている」




「へえ、結構遠いんすね」




「プラド山脈の山間にある村だからな。魔導車も通れなくて、結構時間がかかるんだ」




「じゃあ、だいぶ久しぶりに帰ることになるんすね。ジャンさんが留守の間は、俺たちがしっかり魔力ラインの管理をするんで、安心して行ってきてください!」




後輩は胸を張って言った。




「ああ、頼んだぞ」




俺はそう返事を返し、退勤処理を終えて帰路についた。




このときは、まさかあんなことが起きるなんて、夢にも思っていなかった……




ジャンは乗合馬車に揺られながら、二日がかりで故郷・サイファ村を目指していた。




懐には、帝都で買い揃えた土産物。甘い干し果実、子どもたちが喜びそうな小さな魔導おもちゃ、それに父親の好きだった帝都銘茶――。




久しぶりに会う両親は元気だろうか。近所の子たちはもう大きくなっているかもしれない。




休暇は四日間しかない。村には一泊して、すぐに帝都へ戻らなければならないが、それでも、この旅は楽しみだった。




懐かしい山々の稜線が見えてくるたび、心が温かくなる。


――やはり、故郷というのは、どれだけ離れていても血に沁みついているものなのだろう。




このときのジャンには、まだ何の予感もなかった。


すべてを焼き払うあの運命の夜が、すぐそこまで迫っていることを――。






村は――焼け落ちていた。


家々の骨組みすら残っていない。瓦礫の山と、煤けた地面だけがそこにあった。




それでも、ジャンは諦めなかった。


生き残りがいるかもしれない。誰か、誰か一人でも――。




「誰か! 誰か生きてないか!? 俺だ、ジャンだ! 返事をしてくれ……! 誰かっ!」




喉が枯れ、叫びがかすれていく。


それでも返ってくるのは、ただ風が舞う音と、崩れた材木が軋む乾いた音だけだった。




ジャンは、よろよろと自宅のあった場所へ向かう。


その途中、足元に黒く焼け焦げた塊が目に入った。




――子どもほどの大きさ。




「うっ……そ、そんな……こんな小さな子まで……」


「この村の人が、一体何をしたっていうんだ……!」




思わず膝をつき、拳を地面に叩きつける。


怒りとも悲しみともつかぬ声が喉から漏れた。




やがて、辿り着いた自宅跡。


そこにも、もう何もなかった。




壁も、屋根も、家具も。両親の姿も影も、何ひとつ。




ただ、黒く煤けた地面が広がっているだけだった。


――まるで、「丁寧に」焼かれたかのように、跡形もなく。




「うあああああああああっ!!」


叫びは怒号に変わり、そして呪詛に変わった。




「許さない……許さないぞ……! こんなこと、絶対に間違ってる!」


「俺は……俺は、こんなことになるために、剣を捨てたんじゃない!!」


「魔剣狩り……絶対に殺してやる……! 何が正義だ、ふざけるなああああああっ!!」




かつて、平穏を選ぶために剣を置いた男が、


今また、憎しみの業火の中で新たな剣を取ろうとしていた。




感情が少し静まってきた頃、ジャンは村人たちの墓を作った。




ほとんどが炭と化しており、正確な人数はわからなかった。




だがジャンは、村を出るときにいた五十人を目安に、そのすべてを弔った。




「……みんなの無念は、必ず晴らす」




静かにそう誓うと、ジャンは村を襲った《魔剣狩り》をどう見つけ出すか、思考を巡らせ始めた。




(あの規模の爆発……通常の《魔剣狩り》が使う魔導兵装じゃない。あれは明らかに、特殊な兵装によるものだ。


 普通の《魔剣狩り》が持つのは、雷槍を射出する携行兵装――《プラズマジャベリン》のはず。


 それに、あの紅い鎧……あれも量産型じゃない。何かがおかしい)




「……まずは武器を手に入れないとな」




ジャンは元《雷剣士》。




雷剣士とは、まず自らの魔剣を創り上げてこそ一人前とされる。




つまり――ジャンには、今ここで新たな魔剣を創るだけの技術がある。




だが、魔剣を堂々と持ち歩くのは危険だった。




《魔剣狩り》に狙われることは明白である。




ジャンは考えた末、義手に剣を隠すことに決めた。




義手の内部に刀身を格納し、抜き放つと同時に伸長する仕組み。




魔剣はそのまま右腕に組み込まれるように作られた。




先に完成した刀身を自らの右腕に振るう。




血飛沫が舞い、焼けるような痛みが走った。




「……ぐぅぅ、わかってたが、痛むな……」




うめき声を上げながら、義手を装着する。




魔力のパスを確かめ、ゆっくりと指を動かしていく。




魔導技師として働いていた日々――その知識が、いま皮肉にも役立つこととなった。






帝国西部の郊外、薄曇りの空の下、一人の魔剣狩りが哨戒任務にあたっていた。




「もうこの辺の魔剣士も村も全部狩り尽くしちまったってのに……。こんな場所にいたって、何もねえだろ」




若い魔剣狩りはぼやきながら、漆黒の魔導鎧マギア・フレームに身を包み、携行兵装プラズマジャベリンを肩に担いでいた。標準装備のそれは、帝国制式の威容と冷徹を象徴していたが、彼の口ぶりには緊張感も使命感もなかった。




そんな彼の背後から、不意に声がかかった。




「サイファ村を知っているか?」




振り返った魔剣狩りの視線の先に立っていたのは、右腕が義手の男だった。魔導技師か何かだろうか。だが、ただの技師にしては眼差しが鋭すぎた。




「……いや? そんな村の名前、聞いたこともないけど?」




返答したその瞬間、義手から一閃、紫電の光が迸った。




「――ッ!? ギャアアアッ!!」




閃光とともに右腕が斬り飛ばされ、魔剣狩りは地面に膝をついて絶叫する。肩から先の兵装ごと、きれいに切断されていた。




「な、なにしやがる……! 俺は魔剣狩りだぞ!」




「だから殺す。だがその前に――聞きたいことがある」




義手の男――ジャンは、表情一つ変えずに問いを投げかけた。




「紅い鎧の魔剣狩りを知らないか?」




呻くように、若い魔剣狩りが答える。




「ロ、ロイドさんのことか? あ……いや、どうせ殺されるならこれ以上のことは言わ――」




その言葉の続きを、ジャンは待たなかった。




冷ややかに、だが淀みなく義手の刃を振るい、相手の首を一閃で断つ。




地に落ちた首が転がり、目を見開いたまま空を仰いだ。




「ロイド。……そうか。あいつの名は、ロイドというのか」




ジャンは口元だけで、笑った。




それは怒りでも悲しみでもない、不気味なほど静かな決意の笑みだった。






帝都では、魔剣狩りたちの間にある噂が広がっていた。




帝国西部郊外にて、単独任務中の魔剣狩りが次々と殺害されている――しかも、その死体はいずれも鋭い一閃で首をはねられていた。


まるで何かの儀式のように、どの現場にも争った形跡はなく、犯人の腕前は相当なものだと見られていた。




「帝都にいる間はいいですけど、郊外の任務は……正直、命がいくつあっても足りないっすね、バニングさん」




帝都の訓練場でそう呟いたのは、見習いを終えて間もない若手の魔剣狩りだった。




その声に応えたのは、分厚い胸板と不敵な笑みが特徴のベテラン魔剣狩り――バニング。




「は?あの首狩り野郎にビビってんのか?」




バニングは笑い飛ばすように鼻で笑う。




「ま、そりゃヘッポコどもがぽこぽこやられてるらしいな。だが、俺たちロイド隊は違う。基本三人一組、連携抜群、郊外だろうが敵なしだ!」




「いや、ずっとチームで動けるのズルくないですか……あ、いえ、なんでもないっす」




若者は思わずぼやいたが、バニングの目がギラリと光ると、あわてて言葉を引っ込めた。




「ったく。ま、心配すんな。上もようやく単独任務は控えろってお達し出したらしいしな。今夜は非番なんだ、景気よく一杯やって、この物騒な噂ごと忘れちまおうぜ!」




そう言うと、バニングはドスンと若者の背中を叩き、酒場の扉を勢いよく押し開けた。




にぎやかな笑い声と、酒の香りが、帝都の安心感を象徴するように広がっていた――


だが、その背後には、静かに近づく“首狩り”の足音があった。




帝都の路地裏。バニングは千鳥足で、ふらふらと夜の闇を彷徨っていた。




「う~ん、少し飲み過ぎたか? あの新人がいつまでもビクビクしてるから、つられて飲みすぎちまったかもな……」




一人ごちて笑い、路地の壁にもたれかかる。そんな彼の背後から、低く冷たい声が降りかかった。




「――サイファ村を知っているか?」




バニングは振り返った。声の主は影に溶け込むように立っていた。




「ん? いや……そんな村、聞いたこともないぞ。ああ……いや、あったかな? どうだったか……」




頭を振り、酔った思考をどうにか回す。




「俺たちが村に行くのなんて、魔剣狩りで焼き払うときくらいだしな。そこのどれかか?」




思い出すこともできず、バニングは肩をすくめて笑った。




しかし次の瞬間、声の主は静かに言い放った。




「――そうか。もういい。死ね」




それは、まるで処刑の合図だった。




紫電が奔る。義手の男の腕から、閃光の刃が抜き放たれる。




一閃。




バニングの首が、そのまま胴から離れ、虚空を舞った。




斬り飛ばされたその顔には、まるで信じられないものを見たかのような驚愕と、わずかな困惑が張り付いていた。




そして翌朝。


帝都内で、しかも精鋭中の精鋭――ロイド隊の一人バニングが殺されたという衝撃的な報せは、瞬く間に帝都中へと広まっていった。




「ロ、ロイド隊長! バニングが……あの“首狩り”にやられました!」




ロイド隊の隊員テセウスは、蒼白な顔でロイドに駆け寄った。




「……ああ、聞いている。バニングも迂闊な男だ。まあ、一人欠けたところで任務に支障はない」




ロイドは冷酷に言い放った。




「隊長、今まで“首狩り”にやられたのは、みんな任務中で、それも帝都の外だったじゃないですか! でも今回は違います。帝都内で、それも非番中ですよ!」




「……首狩りの狙いは、俺たちロイド隊なんじゃないですか!?」




テセウスは声を上ずらせ、まくし立てた。




「だとしても――何を恐れる必要がある。返り討ちにすればいいだけのことだ」




ロイドは少しも動じる様子を見せず、冷ややかに続けた。




「一人が不安なら、バニングのように一人で出歩かなければいい。それだけの話だ」




バニング殺害の報せから一週間が経った。




この間、“首狩り”による新たな被害は一件もなく、目撃証言すら寄せられていない。




ロイドたちはその襲撃に備え、日常生活もほぼフル装備で過ごしていたが、あまりにも静かな状況に次第に困惑を深めていた。




「あ、あんなに頻繁に魔剣狩りを狩ってた首狩りが、一週間も音沙汰なしだなんて……もしかして、バニングが本命だったんじゃ……?」




テセウスが、不安を滲ませた声でロイドに問いかける。




「さてな。途中で野垂れ死にでもしたのか、それともこちらの動きを窺っているだけかもしれん」




ロイドは肩をすくめ、興味なさげに答えた。




「そ、そうですよね。様子を窺がっているだけかもですよね。ゆ、油断したらダメですよね……」




テセウスの顔は青ざめ、声も上ずっていた。




「テセウス。余計なことを考えるな。今はこれからの任務に集中しろ。それと、今日は魔導兵装の点検日だ。任務が終わったら必ず済ませておけ」




「え、あ、了解です……」




テセウスは生返事を返すが、その目は明らかに落ち着きを失っていた。




ロイドたちは任務を終え、魔導兵装の定期点検に向かっていた。




「隊長! 自分の点検は、隊長が終わってからでもいいでしょうか? ひ、一人になるのは危険ですし……」




テセウスはおどおどしながら尋ねる。




「何を情けないことを言っている。ここは軍事施設だ。周囲には魔剣狩り以外の帝国兵もいる。一人になるわけじゃない」




ロイドは苛立たしげに言い放った。




「そんなに不安なら、さっさと点検を済ませてこい!」




「ひぃっ……。隊長は強いから分からないんだ……。お、俺はバニングより弱いし……本当に、不安なんだよ……」




ぶつぶつと呟きながら、テセウスは点検場へと向かった。




確かに、周囲には帝国兵が巡回しており、定期点検も高度に自動化されている。


一人の魔導技師が端末の前で作業をしており、その姿にテセウスは少しだけ安心した。




鎧を装置にかけながら、自分に言い聞かせるように呟く。




「こ、この状況なら来ないよな……うん、大丈夫……」




そのとき、不意に魔導技師が話しかけてきた。




「――サイファ村を知っているか?」




テセウスの動きが止まった。目を見開いたまま固まる。




サイファ村。


確か、ロイド隊が任務で焼き払った村。雷の剣士の一族がいた里だと聞いたことがある。




(雷剣士……まさか……!)




テセウスの背に冷たい汗が流れる。




(魔導技師に成りすました……首狩り!?)




「ま、待ってくれ……! 村を焼いたのは任務だったんだ! それに、実際に火を放ったのはロイド隊長の兵装だ! お、俺は後方支援してただけで、たいしたことは……!」




言い訳を必死に並べ立てるテセウスに、技師――否、“ジャン”は無表情のまま、光のない目で告げた。




「――もう、しゃべるな」




その瞬間、義手から迸った紫電がテセウスの喉を一瞬で貫いた。




「カハッ……ガ、ゴホッ……!」




血混じりの声が漏れ、テセウスの体が崩れ落ちる。




その表情には、張り付いたような恐怖の色が残っていた。




テセウス殺害の報は、帝都の魔剣狩りたちに凄まじい衝撃を与えた。




それは、彼らの中枢ともいえる帝都の軍事魔導工廠で、白昼堂々と起きたからだ。




しかも、犯行の瞬間を目撃した者は一人もおらず、ただ遺体が見つかっただけだった。




魔剣狩りたちの間には、じわじわと恐怖が広がり始めていた。




ロイドは怒りに震えていた。




「こそこそとネズミのように……! 俺たち魔剣狩りを、いや、このロイドをここまで愚弄するとは!」




「テセウスも……なにもできずにやられおって! 俺のメンツまで潰れてしまったわ!」




この期に及んでも、ロイドが気にしていたのは部下を失ったことより、自身の威信が傷つけられたことだった。




その時、帝国の連絡兵が部屋に入ってきた。




「ロイド殿、補充人員が充当されることになりました。こちらが承認書です」




「ん? ああ……任務は一人でも問題ないが……いや、これは使えるな」




ロイドは不敵に口元を吊り上げた。




「補充人員は一人でいい。そいつを使って、狩りをする」




「狩り……ですか? ああ、噂の“首狩り”を、ですね」




「そうだ。あいつは必ず、単独行動の魔剣狩りを狙う臆病者の屑。このエサには必ず食いつく」




「……補充される方には、少し同情しますね」




「損失を最小限にするためにも、なるべく使えない奴をよこせよ」




「了解しました。ロイド隊長の意向、上に伝えておきます」




連絡兵は敬礼し、足早に退室していった。




ロイドは憎悪に満ちた目で、壁に飾られた部隊旗を睨みつけた。




「見ていろよ、首狩り。今度は――お前が狩られる番だ!」






そして二日後、ロイド隊に補充人員が到着した。




「本日付でロイド隊に配属となりました!レリウスです、よろしくお願いします!」




はきはきとした声、礼儀正しい態度。


その目には希望が宿っており、自分がこの後、囮として使われるとは露ほども思っていないようだった。




「魔剣狩りになったばかりの新人か……まるで注文通りだな」




ロイドは低く呟くと、レリウスに向き直った。




「新人、お前にはさっそく任務に就いてもらう。一人での哨戒任務だ、簡単だろう?」




「一人で、ですか? でも今は首狩りが出るので、通常は複数人での任務では……」




「ああ、そうだな。だが今回は例外だ。この任務は首狩りを誘い出すための囮任務。


表向きはお前一人だが、後方支援として俺が控えている。心配するな」




ロイドはできるだけ優しい声音で、言い含めるように説明した。




「了解しました! 首狩りを捕らえるため、全力で囮になります!」




囮任務であると聞かされてもなお、レリウスは明るさを失わなかった。


その純粋さが、かえって残酷な皮肉に思えるほどだった。




帝国西部郊外――旧魔剣士集落跡




新人魔剣狩り・レリウスは、朽ち果てた集落の中で哨戒任務を続けていた。


首狩りを誘い出す“囮”として任命されてから、すでに五日が経っていた。




その間、他の魔剣狩りたちは次々と襲撃を受け、多くが命を落とした。


しかし、自分の担当区域には一度も首狩りは現れていない。




「なぜ、自分のところには来ないんだろう……。ここに来てくれれば、ロイド隊長が討ち取ってくれるのに……」




レリウスの声には、恐怖もあったが、それを上回る使命感が宿っていた。




――その時だった。




背後から、低く冷たい声が響いた。




「……サイファ村を知っているか?」




瞬間、レリウスは反射的に振り向き、プラズマジャベリンから雷槍を放つ!




 ビシュン! バチィッ!




しかし、そこには誰の姿もなかった。




次の瞬間、レリウスは自分の視界が異様に傾いていくのを感じた。


視界の先にあったのは、切り離された自らの胴体――。




「ロイド……いるんだろう? 出てきてやったぞ。姿を現したらどうだ?」




レリウスの首が転がり落ちる中、ジャンは静かに語りかける。


やがて、瓦礫の陰から一人の男が現れた。深紅の鎧を身にまとった、ロイドだった。




「お前ごときに、帝国精鋭たる魔剣狩りが次々と屠られていたとはな……」




ロイドは余裕たっぷりに嘲るように言葉を続けた。




「義手に仕込んだ魔剣が得物か。悪くはないが、その程度の代物で、不意を突かなければまともなダメージすら与えられないだろう?」




冷たい眼差しのまま、ジャンはゆっくりとロイドに向き直った。




「……そういえば、まだ聞いていなかったな。サイファ村を知っているか?」




言いながら、魔剣に紫電を纏わせる。




「お前も、あの村と同じく灰にしてやる!」




ロイドはその言葉に応えるように、魔導兵装から火球を連射した。




彼の魔導兵装は特別仕様で、通常の携行兵装プラズマジャベリンより二回りも大きい。


内部には本物の魔剣カルド・ゲイザーが内蔵されており、これによって高火力の火球を高速で連射できる広域殲滅兵装だ。




しかし、火球は一発たりともジャンに当たらなかった。


まるで火球自体が彼を避けているかのような、そんな錯覚を覚えるほどに──




「なぜ当たらん!?まるで着弾点があらかじめわかっているような──」




ジャンは間合いを一気に詰め、仕込み刀を抜いて一閃を放った。




「ガキィッ!」




ロイドは咄嗟に魔導兵装を近接モードに切り替え、斬撃を受け止める。




「速い……反応が追いつかん!」




だが、実際の速度はそこまで速くない。


それでも、対応するのが精一杯だった。




「不思議そうな顔をしているな。教えてやろう──雷剣術の真髄は、超高速演算による疑似未来予知だ」




ジャンは静かに言い放つ。




「疑似未来予知……なるほど。だから次々と単独の魔剣狩りを都合よく襲えていたのか」




「ぐうっ!」




会話の合間にも、紫電の閃きが熾烈に襲いかかる。




徐々にロイドの防御が破綻し始め、魔導兵装の装甲が砕け散った。




「ガシャン!」




内部に組み込まれていた魔剣、《カルド・ゲイザー》がその姿を現す。




ジャンは一目で、それが伝説級の魔剣であることを見抜いた。




帝国は魔剣を危険視し管理すると言いながら、最も危険な魔剣を兵器として転用し、村を焼き払っていたのだ。




その瞬間、ジャンの胸中で何かが弾けた。




全身に紫電を纏い、超高速演算のリソースをすべて注ぎ込んで──




雷剣術最大の攻撃技、「瞬雷斬」を、不完全ながらも放つ。




電光を纏った一撃が、ロイドの魔導兵装と紅い魔導鎧を粉砕し、ロイド自身をも塵へと変えた。




ロイドは討ち取った。だが、ジャン自身も無事ではなかった。




本来、《瞬雷斬》は専用の魔剣と魔導鎧の両方で負荷を分散してこそ成立する技だ。


暗殺という目的ゆえに魔導鎧を身に着けていなかったジャンにとって、それを強行することは、すなわち自壊を意味していた。




「ぐ……あ、あ……っ!」




強烈なフィードバックにより全身はズタボロだった。魔導義手も完全に壊れている。




だが、義手は直せばいい。体も時間をかければ癒えるだろう。




ロイドを倒すことは、ジャンの復讐の一端にすぎない。


本当の目的は――帝国による《魔剣廃棄法》を撤廃させること。


その時こそが、彼の復讐の終着点となる。




しかしその瞬間、周囲の空間がわずかに軋んだ。




――ブォン。




空間の裂け目から姿を現したのは、一人の男。




漆黒に金のラインが走る魔導鎧を纏い、白銀の杖を片手に携えていた。


その圧倒的な威圧感に、ジャンは目を見張る。




「……まさか……!」




見間違うはずもない。


いや、帝国に生きる者なら誰しもが、その姿を知っている。




帝国皇帝――クロノ。




「ロイド……その程度か」




皇帝は、倒れ伏した部下を一瞥し、呟いた。




そしてゆっくりと、ジャンに視線を向ける。




銀光。




刹那、紫電すら凌駕する閃光が駆け抜けた。




ジャンの首と胴が、ずれる。




自らが行ってきた“暗殺”という手段を、そっくりそのまま跳ね返された形だった。




どうやってやられたのか――ジャンには、最後までわからなかった。




復讐は……未完のまま、途切れた。




皇帝は地に落ちた《魔剣カルド・ゲイザー》を拾い上げ、何事もなかったかのように空間を再び歪める。




そしてその姿もまた、静かに霧散した。




帝国歴二百七十年。




魔剣狩りたちの間で話題になった、あの首狩り騒動も、やがて帝都をにぎわせた茶番として扱われるようになった。




半年もすれば、誰も首狩りという名を口にしなくなった。




その日、確かに一人の復讐者がいた。




村を焼かれ、家族を失い、全てを呑み込まれながらも、自分の信じた正義のために剣を振るった男がいた。




彼の斬撃は、帝国の最上位に位置する男に届く寸前まで至り、歴史にかすかな傷跡を刻んだ。


だがその記憶すらも、刻まれたページが破られたように、闇の底へと沈んでいく。




名もなく、像もなく、記録もない。




ただ、一人の復讐者が歴史の闇に埋もれていった。

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